秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

青春の影

浪人時代のことだった。
 
福岡市の地方公務員試験に合格し、もう大学はあきらめて、福岡で生きようと決めていた。市の職員をやりながら、地元で芝居をやろうと思っていた。
 
大学受験も、憧れの大学のキャンパスを最後に見てみたい。それだけの気持ちで、ろくに勉強らしい勉強もしないで受験した。
 
親に悪いと思い、受験料と交通費を、試験の直前まで、喫茶店や家庭教師のバイトをして工面した。金がなかったから、オレは、夜行の「あさかぜ」で上京した。
 
小学生の女の子に国語と英語を教えていたが、ホステスをやりながら、シングルマザーをやっているお母さんが、オレが受験でしばらく家庭教師を休みますというと、確か、千円札を5枚か、6枚、お札のまま、オレの手に押し付けた。
 
オヤジさんは食えないヤクザだった。だが、その気遣いに、オレは涙が出るほど感動した。いろいろな思いをもらって、オレは受験するのだ。しみじみそう思った。
 
だが、まぐれで合格した。教えていた小学生の子と別れるとき、オレはヘレン・ケラーの本と学習参考書をプレゼントして、どんなに苦労があっても、夢をあきらめるなと伝えた。
 
そのとき、福岡の街に流れていたのがこの曲だった。福岡で生きようと決意しながら、できなかった男の懺悔の歌になった。