かつて黒船に乘って、ペリーが来航したときの話だ。下田の町にある桶屋の桶に目を止めた。
木材と竹のタガだけでつくられた桶は、水を入れても漏れない。日々の生活用品で、水桶、洗濯桶、湯桶、そして棺桶と日本人の生活には欠かせないものだった。
ペリーは、日本人の生活の中にある、この木工を主体とした技術の高さに驚き、当時の米国大統領ミラード・フィルモアに書簡を送っている。
「日本は、そう遠くない将来。世界有数の技術大国になる可能性が高い。日本人の初等教育普及率は高く、勤勉で、いずれ欧米に比肩する力を持つだろう」
実際、江戸の寺子屋文化のおかげで、国民の半数以上が読み書きができる国は、当時の世界では高い水準の教育レベルだった。イギリスでさえ、3割程度の時代だ。
ペリーは、日本の潜在的な力を見抜き、それが徒弟制度の中で磨かれた職人技にあり、同時に、寺子屋文化で幼少の頃から身に付けられていった算盤、暗算、読み書きといった知的教育と道徳、倫理、社会規範、礼儀の躾教育、生活態度の育成によって支えられていることをわずかな滞在で理解したのだ。
これは日本に限らず、どの国家にも、そして世界の持続可能性を考える上でも当てはまる。重要な要点を指摘している。
私の子どもの頃もそうだが、水桶でも洗濯桶でも風呂桶でも、長く使うと水漏れが始まる。プラスチック製品などだと、割れてしまえば、捨てるしかない。
だが、木桶は、桶屋に持って行けば、修理ができる。板を貼り換え、タガを交換する。それを木槌でしっかり叩いて固定すれば、木が腐食するまで、持つのだ。器用な大人は、自分で修理していた。
こうした文化でわかるだろう。
物を大事にする。しかも、高い金属製ではなく、安価に手に入る木材で間に合わせる。
壊れ掛ければ、それを直して使う。腐食しても乾燥させれば、風呂煮炊きに使える。土地に返せば、土になる。すこぶる物、自然にやさしい。
そして、そのやさしさは、物に向かう姿勢。物を作ってくれた人、それを使う人の心のあり方と互いへの感謝と尊敬を育てた。
物資もない日本が資源国家であり、経済大国のアメリカと4年もの間、負けるとわかっていた戦争を継続できたのも、そして敗戦後、世界が驚嘆する経済復興と成長を遂げたのも、一重に、この江戸300年の歴史が培って来た、文化があったからだ。
そこにあったものは何か。
簡単なことだ。社会の基軸がしっかりとあり、法の前に、社会道徳や社会規範、倫理が機能していたからだ。
桶がそうであるように、ひとつの物、形、考え方に生活の末端まで、自然との共生を基にしたそれらが生きていた。それが、多くの生活の試練や困難。戦争という理不尽な暴力と人権疎外、弾圧にも耐え、敗戦という苦渋の中でも立ち上がる基軸として、私たち日本人にあったのだ。
第一次安倍政権誕生のときから、私は言い続けている。いまこの国は、法や秩序、制度や国家システムが桶が笑った状態にある。
私が言い出した頃より、その状態は深刻で、この国を持続して行くのなら、腐った桶の板をほとんど剥がし、新しい木板に変え、ゆるんだタガを締め直さなくてはいけない。
三権分立を守り、そこにある者は自ら範を示さなくてはいけないのに、その当事者が、政治や検察、司法の腐敗と無効化を進めている。
国、社会を維持するには、法や制度が機能していなくてはいけない。その基本にあるのは、社会学者マックス・ウェーバーが言うように、社会規範、倫理(エトス)だ。
それは、各民族に受け継がれ、培われた行動様式、考え方、ふるまいを意味する。これが不遜な利己心や汚れた私利私欲で汚濁されてるとき、当然ながら、法や秩序、制度そのものが溶解する。
ひとつの国家、国が成立し得るのは、国民が押しなべて、自分たちの行動様式、倫理観を維持でき、それゆえに、法や制度を信じることができるときだ。つまり、国、国家というのは、その幻想を人々が共有できることによって、成立できる。
経典宗教国家である欧米や中東諸国は、同じ神を信じることによって、幻想を人々が共有しうるステージを生み出した。
賛否はあるのは承知だが、この国では、天皇が存在することにって、それを成立させて来た。明治から戦中まで、それが政治家や軍部の軍国主義政策に利用されたもの事実だ。だが、戦後日本において、天皇の存在は、かつて以上に、この国の法制、道徳倫理の要になっている。
戦後民主化の中、アメリカ隷属国家となった中で、日本国憲法の存在意義と重要性の象徴として、天皇家は衣替えしたからだ。
天皇家には、故事神話から続く、伝統文化と行動様式がある。だが、その基本にあるのは、自然との共生だ。同時に、自由・博愛・共生、そして平和をそのふるまいによって、国民に示す、私たち日本人が敗戦後を生きるための知恵とした象徴そのものだ。
それがあることによって、私たち日本人は、意識するしないに関わらず、寺子屋で教えられる子どものように、社会規範、道徳、倫理、そして、生活態度を見直し、幻想としての国家とその法制に従う意志を確かめ、また、異論や反論を感じれば、それが、自由・博愛・共生、そして平和の精神に反していないかどうかを議論して来たのだ。
今般の国会で議決されている法案はすべて、この日本人と日本人のつくり、育て、育んで来た歴史と文化に真っ向から反する。
ただでさえ、詐欺や汚職、贈収賄が当たり前のこの世の中で、天皇制の基本を壊す行為を行えば、桶が笑うように、国家は崩壊する。
円安と株安。国債長期金利の上昇。トランプアメリカに追従する属国主義で、それが乗り切れるわけがない。
無知と不勉強。無教養と学識のなさ。それがこの国を、世界を混乱と崩壊へ向かわせてる。
止めるのは、あなただ。もし、あなたにホントの愛国心というものがあるなら、郷土愛や家族愛、身近な人々のこれからを願う愛があるなら。
