秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

ジャニーズジャパン

亡くなられた生物学者の藤田絋一郎さんや宮崎学さんと雑談していて、日本人の免疫力の低下や耐性の欠落の話で盛り上がったことがある。藤田さんとの雑談には、宮台真司さんも同席していて、藤田さんの話に共感されていた。

藤田さんは回虫博士でよく知られていた方だ。子どもの食アレルギーを始め、花粉症など免疫系のアレルギー障害が広く日本人に広がった要因に、回虫の駆除、絶滅があると科学的な調査データをもとに主張されていた。

いまの60代以上の方なら、体験しているが、高度成長期の小学生たちは、回虫検査が定期的にあって、回虫がみつかると数錠の薬が渡された。回虫は、投薬治療1日~3日で駆除できる。いまでは想像もつかないだろうが、あの頃、クラスの1/4くらいには回虫が見つかっていたのだ。つまり、それくらい日本人には一般的だったということ。

理由は、簡単。農作物の肥料にまだ人糞が使われていたためだ。人から排泄された回虫が農作物に付き、それが食として取り入れられることで、卵の状態で、体内を巡り、成虫となって胃腸に潜み、胃腸内の消化物の栄養をもらい生きる。

不衛生な環境で手洗いをしない、食材をよく洗わないなどすると、回虫は人体に取り込まれてしまう。通常1~2週間で死滅するか、体外に排泄されるのだが、場合によって、胃腸や盲腸を傷つけてしまうこともあるので、駆除の対象とされた。

いまでは、トイレが水洗式になり、上下水の完備など衛生環境がよくなった上に、農作物栽培に化学肥料が普及して、回虫がぼくらの体内に寄生することはほぼない。

だが、この回虫の駆除に比例して、食アレルギーや花粉症といった環境アレルギーが増大した。回虫だけではない。経済成長や医療の発展に伴い、衛生環境が徹底され、家庭でも職場でも学校でも、公共施設においても、除菌と消臭が、ある意味異常とも言えるほど徹底されていく中、人体における免疫系の脆弱さがより目立つようになっていく。

それは単に、身体的な傾向としてだけでなく、精神的な耐性にも影響を表し、いわゆる強靭さや打たれ強さ、めげない精神といったものまで低下させた。回虫のような存在は、時に悪さもするが、腸内の悪玉菌を食し、腸内環境を保つ役割も果たしていたのだ。

 

すべてをクリーンにすれば、何でも片付く。あるいは、すべてを白日に晒し、何にでも陽を当てる、正義を振りかざせば悪は駆逐できる。そう考えることの危うさを表している。

いま、ジャニーズ喜多川の少年へのパワハラによる性的虐待問題やこれを摘発できなかった事務所の体質が大きな話題になっているが、それらの報道を見て、ふと、この回虫の話を思い出した。

いまさら。実は、そう思ったテレビ・映画・舞台などの制作関係者や広告・マスコミ関係者は少なくないはずだ。今回のジャニーズ事務所に限らず、芸能事務所内の性的被害、テレビ業界にまつわる性の醜聞は、いくつもあったし、いまもある。もっといえば、表に出ていない、企業におけるパワハラ、セクハラ問題も多数ある。

それに目をつぶって来たのは、紛れもなく、今回ジャニーズ事務所を批判しているマスコミだ。多くのマスコミが、それこそ、噂としてでも、場合によって事実として、喜多川氏の性加害について知っていた。他の大手芸能事務所の経営者やそれに準ずる支配力を持つ者による性加害や枕営業の事実を知っている。

芸能界も腐っているが、実は、これを起用しているマスコミも腐っているのだ。BBCの報道という外圧で、ジャニーズのことになると、これだけの話題としていま取り上げているが、安倍政権時の多くの疑惑やこれまでの自公政権の悪行の噂や問題については、バランスある報道という美名に紛れて決して、今回のような批判はしない。

同時に、まるで当事者ではないように、ジャニーズ事務所を批判している輩も、これを同情的に擁護している側も、自分たち大衆自身が、未成年の少女や少年を性的な視線も含め、消費して来た事実を振りかえられない。

これは、福島第一原発の処理水の放出問題でもまったく同じだ。安倍政権以来のこの国の経済の低迷や庶民生活の困窮、物価高、格差の広がり、野放図な予算の配分といった本来、辛辣な視点で捉え、批評しなければいけない問題についても、まともに取り上げない。政権擁護の垂れ流し報道ばかりだ。これにも国民の側から声が上がることはない。

ジャニーズの問題は、そのままこの国のあり方の問題だ。わかっていながら、言葉にしない。きれいな所しかみない。差しさわりないところで抑える。それでいながら、何かが露見すると、自分は良識ある罪なき人として、徹底的に批判の側に回る。

自分たちの中にある暗部には目を向けず、清廉で穢れなき人を装うのが当たり前になった国。回虫を駆除すれば、自分は万全だと思ってこれを駆除することだけに必死で、じつは、人間としての矜持やあるべき姿、暗部も含め直視する力をなくした、情けない日本人の姿ばかりが浮き上がる。

回虫をなくし、他人の批判ばかりで、何一つ自分自身の問題として捉えられない、耐性を失った、腑抜けで生きるのか、異物を体内に寄生させながら、この暗部も自分のものだと認め、きれい事だけが唯一ではないと、自らを律し、人として恥じない生き方をするのか。

その選択をジャニーズ問題はぼくらに突き付けている。