秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

映画のこと5

ATGは、50年代、映画の母といわれる、当時、東和映画の社長だった川喜多かしこが芸術映画の上映専

門館、アートシアターを設立しようと提案したことから始まっている。それに、東宝の副社長だった森岩

雄が賛同し、興行館を経営する三和興行の社長、井関にもちかけ、東宝名座や新宿文化劇場などのいくつ

かの劇場グループが資金提供をして発足したのだ。そのおかげで、大劇場ではかけられない、良質の佳作

が日本の若者にも紹介されるようになった。

当初は配給だけのシステムだったが、三島由紀夫が監督、脚本、出演した「憂国」などがヒットすると、

制作費1000万の低予算だが、芸術性の高い映画の制作プロデュースもやるようになった。しかし、実験的

な作品も多く、商業主義とは一線を画した映画制作を目指していたから、映画はすべてがヒットするわけ

でもない。資金難から参画していた劇場が抜け、さらには、80年代に入ると芸術性の高い映画へ足を運ぶ

観客も激減していった。

70年前後までは、寺山修司というスターがいて、「書を捨てよ、街に出よう」「田園に死す」といった名

作で若い世代の強い支持を受けていた。勅使河原宏神代辰巳などにも熱狂的なファンがいたが、その

後、森田芳光高橋伴明井筒和幸大森一樹といった若手に映画監督としての地歩を与えたものの、時

代は、ATGのような規模の小さい映画から、大資本を投入して、大宣伝を行い、大量の観客を動員する投

資性のある、角川春樹が始めた、ハリウッドを模倣した大作主義に転じていく。また、観客も手軽に娯楽

を楽しめ、政治や精神世界、芸術といった硬質なテーマの映画から撤退していったのだ。

ぼくは、黒木和雄「祭りの準備」「竜馬暗殺」には強い感動を覚えた。原田芳雄はすごかった。まるで、

アメリカンニューシネマに出てくるような、いっちゃっている感じがどうしようもなく好きだった。


ATGがアメリカンニューシネマにあるテーマ性を持ちつつ、映画芸術へのこだわりを強く見せていた頃、

ATGに参画していた三和興行の新宿文化シアターで演劇の上演がされるようになる。当時、学生だった

団塊世代の連中が岩波文庫ジーンズのポケットにつっこんで、手には朝日ジャーナル(現在のAERA)を

もち、片手にゲバ棒を持って、列に並んだという逸話がそこから生まれる。

清水邦夫別役実の戯曲が舞台にかけれられ、早稲田小劇場(現、SCOT)の鈴木忠志や脇役で俳優をやっ

ていた、蜷川幸雄が清水と組んでさっそうと演出家デビューする。いわゆる、演劇の世界における小劇場

運動の拠点的な役割を担うようになるのだ。その仕掛け人が、新宿文化の支配人だった、葛井欣四郎だっ

た。

ちなみに、ぼくが大学を卒業し、就職もせず、劇団を続けたとき、その稽古場として使っていた、新宿厚

生年金会館の裏にあった、アートシアター宿は、葛井欣四郎と妻の村井志摩子から許可を得て、アートシ

アターの看板を上げていた。葛井欣四郎の妻、村井志摩子は役者に稽古をつけるのに、よく利用していた

し、第三舞台東京乾電池なども稽古場に使っていた。清水や蜷川たちの時代からもう10年近くが経って

いたが、まだ、なんとか小劇場の活動は続いていた。しかし、やがて、それも閉鎖になり、いわゆる小

劇場運動といわれていた、演劇革命は終焉を告げた。そして、多くの演出家、劇作家、俳優が小劇場が

マスコミや大劇場にデビューしていった。いま、考えれば、あれはいったい何だったのかと思う。

単に発表の場もなく、小さな小屋で芝居をやっていただけの連中も多かったのだ。

残ったのは、唐十郎鈴木忠志別役実清水邦夫、大田省吾といった連中くらいだった。

しかし、ぼくは、アメリカンニューシネマ、そしてATG、さらには、小劇場運動の姿を通じて、大きな学

習をした。単に演劇、映画、あるいは、脚本家、劇作家、監督、演出といった単元的な仕事だけでは満足

できなくなっていったのだ。プロデュースをやりたいというのではなく、偏狭な小劇場主義も、しかし、

切迫感のない商業主義とも違う、新しい表現形態やポジションを得たいと思うようになっていった。



ぼくが拾いものをしたと、いまでも思っているアメリカンニューシネマとATG作品及び当時の佳作


☆ニューシネマ
ディア・ハンター」「真夜中のカーボーイ」「ダクシードライバー」「キャッチ22」「マッシュ」
「卒業」「ストロードッグ」「小さな巨人」「俺たちに明日はない」「イージーライダー」「バニシングポイント」「時計じかけのオレンジ」「オリエンタル急行」「カッコウの巣の上で」「フレンチコネクション」

☆ATG及び佳作映画
「サード」「田園に死す」「祭りの準備」「大地の詩」「竜馬暗殺」「八月の濡れた砂」「皇帝のいない八月」