秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

少しずつ勝つ。

高校生のときだ。「北朝鮮のミサイルが日本の米軍基地に発射された!」というデマが流れたことある。

いまの福岡に住む人にはわからないだろうし、基地のある町に住んだことのない人たちにもわからないだろう。

福岡空港が板付空港といわれ、空港の半分が米軍に占領されていた時代だ。いま全日空ホテルが建つ、志賀島に続く、和白には米軍の演習場があり実弾訓練がされていた。

郊外の春日原、白木原などかつて陸軍の基地だった場所は米軍基地だったし、いわゆるハウスといわれる米軍兵家族の家々も並んでいた。ちなみに、ぼくは、そのあたりで、中学、高校時代を生きた。

歌手のMISAがそのハウスで声楽や英会話の勉強をしていたことは知られている。上智大へ進み、いまは某大学の英語科教授になっている高校時代の友人も中学生のときから基地で英語の勉強をしていた。

貧しかった中学時代の同級生の姉は、米兵のオンリー(ひとりの決まった米兵しか相手にしない専属娼婦)だった。

基地があるという中で、突然起きたデマを、だから、ぼくらはデマとは思えなかった。

「戦争が始まる…」。「ミサイルは福岡を標的にしているらしい…」そう思ったときの恐怖感はいまでもはっきり覚えている。朝鮮半島からそう遠くない土地に住んでいる人間は、「やられるなら、ここだろうな」と思い込む地理的環境が整っていた。

ぼくら福岡の人間にとって、そこは生活を共にする人たちの母国であり、すぐそこの異国だった。

そして、半島でまた、戦争が起きるかもしれないという恐怖心の根本にあるのは、だれもが戦争は絶対いやだという切実な思いだった。基地があることで緊張があったとしても、この平穏な暮らしが続かなることだけは、いやだ! と、本気で思ったのだ。それは自分たちの未来がなくなることだから。

今日、南北首脳会談が和平へ向けた朝鮮半島の非核化で合意した。

ここに至るまで、ナントカ評論家やタレント弁護士、タレント評論家たちが圧力、圧力と安倍総理を擁護するように叫んでいた。トランプの圧力外交の先に、まるで戦争が起きることを望むかのように。安保法案の正当性、憲法改正の現実を形にすることを望むように。

そして、南北会談、米朝会談が開催されそうになると、圧力路線は堅持した方がいいと安倍総理の幼稚な国難騒ぎに同調してきた。

この数ヶ月の北朝鮮の急転直下の変質は信じられないと、彼らは驚きと警戒心、猜疑心をむき出しにしてきた。

安倍総理にいたっては、平昌オリンピックで文大統領に圧力優先で、会談は控えてはと言い出し、内政干渉だと突っぱねられている。まさに手前勝手な主戦論内政干渉だ。

朝鮮半島朝鮮民族が日本の占領から自由になった瞬間、大国の利害関係で、民族同士、兄弟同士、家族間で殺し合いをし、70年の分断の歴史をどのような思いで生きてきたのか。まったく、理解していないし、考えてもいない。(韓国映画ブラザーフッド」にその詳細が描かれている)

もっとも戦争をしたくないのは、だれでもない、半島にいない人も含め、朝鮮民族、その人たちなのだ。

危機が強まれば、かつてぼくらが戦争は、絶対にいやだ!と恐怖感の中で感じた幾倍もの思いを持っている。戦争を選択するくらいなら、苦難や失敗、挫折や批判があっても、民族の悲願である統一へ向けた行動をとりたい。そう思って、何の不思議があるだろう。

もちろん。それは簡単なことではない。それでも民族同士が話し合い、そのための一歩を踏み出そうとすることに、他国があれこれ口出しすることではない。成功も失敗も挫折も、すべてはその民族が決め、行動することだ。

その目標が世界平和や地域の安定に寄与するのであれば、非難するのではなく、どう手助けができるか、そのために何が自分たちにできるかを考えよ。

自国の利益や問題を優先するのではなく、まず、自らが明治以後、半島に強いてきた理不尽な支配の反省に立ち、彼らのためにできること、彼らの自立と統一へ向けた行動が成功するために、彼らの行動を邪魔するのではなく、前へ進められる働きをすることだ。

批判することはだれにでもできる。笑うことはだれにでもできる。一番難しいのは、それでも理想へ向けて、小さな一歩を未来を信じて、歩み出すことだ。

一度に、一気に解決できる問題などない。人にできるのは、敗北を重ねながら、あきらめず、少しずつ勝つことだ。