秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

風に立つライオン

風に立つライオン」(企画・主演大沢たかお・監督三池崇史)が好評らしい。

こうした邦画は、積極的に観たいと思わない。だが、予告を観たときから、この作品は観ておこうと決めていた。

医療における紛争地域での海外支援を題材にしたものだが、実話に基づいている。支援で倒れた人物を題材にした映画は、容易に人々を感動させる。だが、情緒に流されず、共感を持たせる力のある映画は少ない。

それは、つくり手に現実の実状理解がないことや美談にして安易な感動をえようとする姿勢があるからだと私は思う。

俳優の大沢たかおは、あまり知られていないが、英語が堪能なこともあり、海外放浪生活も経験し、デビュー後、ドキュメンタリーでアジア、中東、アフリカといった苛酷な地域を回った経験がある。実感として、海外の紛争地域やその周辺の空気がわかっている。そうした思いもあって、さだまさしに原作の執筆を依頼したのだろう。

友人のJENの木山啓子もよく語る話だが、被災地や紛争地域への支援というとき、その生活者や被害者の現実や求めているもの、必要としていること、あるいは、今後必要と予測されることとちぐはくなことをやる団体がいる。

それは、支援をビジネスとしたり、団体や個人の社会的実績とする意欲の方が強いからだ。主人公が被災地ではなく、あるいは、一部の被災者でしかなく、主体は支援する側にある。

建前や能書きはいろいろあっても、その本質があり限り、被災地や被災者の最大公約数にはならない。

もちろん、そうしたものもあって構わないが、本来、やるべきは、広く人々に共感を持たれる活動であって、そのためにこそ、当時者ではない人々がそこにかかわる意味と意義がある。苦難の渦中にある人々には、見えないものあるからだ。

都会の押し付けや不具合のない環境にある人間の都合ではなく、地域の再生や新生に取り組む、現場の人間として、自分なら、私たちなら、こうした取り組みこそ、数年先の確かな未来を創造できるという確信と理念のあるものでなくてはいけない。

そのとき、初めて、人は、風に立つライオンになれるのだ。


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