秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

いつまで背中をみせれば

年明けからずっと慌ただしい時間が過ぎている。その慌ただしさの中で、年度末ということもあって、いろいろな変化も身近に起きていた。
 
だが、今回のいろいろは単に年度末というだけではない、団塊世代やオレたち50代末の世代が社会の一線から遠ざかる転換点にあることを感じさせるものが少なくない。

昨夜、乃木坂長寿庵にご一緒した東映のシニアプロデューサーのKさんは、今年の誕生日に65歳となり、延長されていたシニア勤務契約が切れ、本当の意味で退職となる。
 
飲み友でもあるY部長も執行役員から取締役にならないとあと1年ほどで退職となる。S次長はオレよりひとつ下であと2年で退職だ。
 
うちのマンションの管理人さんは、会話をするようになったのはここに移ってからだが、隣のマンションにいる頃から顔なじみだった。細かく気の利くいい男性管理人さんで、もらいものの酒や菓子をよくおすそ分けした。見かけが若いので、そんな歳とは知らなかったが、2月で65歳。こちらも2月いっぱいで退職された。

そして、このマンションに移転する前まで、10年住んでいた隣のマンションは今年夏から取り壊しとなり、建て替えとなる。乃木坂暮らしの最初がここだったから、感慨深いといえば、深い。
 
建て替えは耐震の問題だ。こちらのマンションに移ってからも、交流のあったそのビルの管理人夫妻とも4月いっぱいでお別れとなる。

乃木坂は住宅も少なくない。夜は赤坂や六本木と違い、じつに静か。その住宅地にひとつだけあった小さな全日食スーパーも2月末で閉店した。経営が行き詰ったことが理由だっだそうだが、地元の高齢者や単身生活者にとっては近場に小さいなからスーパーがあるのはなにかと便利だった。

 
買い物にいくとオレが映像の世界の人間と知って、いつもテレビドラマや映画の話題をふってきていた、中年の女性店員さんも転職した。近くにある母子家庭寮の若いお母さんたちをパートに雇い、地域にも貢献していた店だったのだが…

青山1丁目にイオンの小さなスーパーができ、その前からあったミッドタウン地下のスーパーにも客をとられ、やっていけなくなったらしい。中年の人のいい独身男性のオーナーは江戸川区の人らしく、実家に帰った。

ハンナのばばあもいつまでも店に出てはいられないだろう。乃木坂長寿庵の大女将も80歳を過ぎた。都会の真ん中に、わずかばかりあった人情や人の風情が少しずつ消えていく。
 
確かに、気が付けば、オレが乃木坂に暮らすようになって、もう20年近い。いろいろなものが変わり、消えていくのは道理といえば道理。

だが、そうして消えていく、変わっていくものの先に、それに代わるものがあればいい。
 
谷中商店街の一角で、いまでも江戸組み細工の商品を売っている店がある。わずかに残った職人の仕事も後継者がおらず、いつまで続くかわからないと聞いた。

時代の転換期。そこからまた新しい何かが生まれ、始まる。そのことに異議を唱える気はない。乃木坂にも気の利く若い人はいる。そうした若い人に、引き継がれるべき精神や思い…人の人情や風情というものが姿は違え、どこかに残り、語り継がれたらと思うものだ。

結局は、消えていく人の背中でしか、それは伝えられない。それを受け止められる感性のある奴がいなければ、受け継がれない。

いつもふと自分の年齢を忘れてしまうオレは、さてさて、いつまで背中を見せていればいいのだろう。