秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

問いの町

MOVEという団体を発足したとき、その活動の目的とするものが何なのか。何を形にしようとしていうのか…。それがわからなかった人がほとんどだった。

表に現れている姿からすれば、確かによくわからないだろう。
 
いわゆる、農地に行き、農業支援をやるわけでもなく、仮設住宅に住む人々の生活支援をやっているわけでもない。

子どもや女性、高齢者のための現地での取り組みをやっているのでもない。まして、反原発脱原発といった運動をやっているわけでもない。大量に福島の産品を購入するわけでも、風評被害打破のためのキャンペーンをやっているわけでもない。
 
福島の実状や現状を伝える場を東京でのイベントという形で提供し、コーディネートし、オレが福島へ幾度も足を運び、人と知り合い、つながることをやっているだけだ。

そんなことなら、行政主導のイベントもあれば、デパートや企業が主催する支援イベントもある。物産消費を促すなら、店でも始めた方がよほどいい。ただ被災地の人とつながるためだけながら、団体をつくる必要もない。自分ひとりで、どこかの町の人と仲良くなり、仲間や家族を連れて観光や旅行にいけばいい。
 
それと何が違うのだ。そこだけ見ていれば、そう思う人の方が多くて当り前だ。

オレは支援や復興という言葉が好きではない。もちろん、支援は必要だ。失われた町や地域を復旧復興することも必要だ。だが、それだけでいいのか…と思う。
 
ただ、いままで同じような生活ができればいいのか、それができなくても、それに似たような生活が取り戻せればそれでいいのか。いや、そもそも、似たような生活自体、取り戻せるものなのか…その疑問だ。
 
これを契機に、改めて、そして、いままでとは違う視点と考え方で、自分たちの地域のあり方を見つめ直してみてはどうなのか。都市と地域の関係や生産と消費の関係、地域間の人のかかわり方、つながり方を見つめ直してみてはどうなのか…
 
個々に抱えている苦難や試練への取り組みも大事だ。だが、そのあり方も、いままでと同じに…を基準にしていいものなのか、いや、それを基準にしていて、本当に回復などできるものなのか…という問いだ。

しかし、人は問いから始めることが苦手だ。基準をみつめなおすことが不得手だ。発想を変えることが簡単にできない。結論をすぐ求め、これまでの考えから自由になれない。
 
だったら、まずわかりやすくイベントをやり、地域の人と親しくなり、こちらの考えを伝たえ、その問いを共有するところから始めよう…そう考えたに過ぎない。それをやることで、何を目的とし、何を実現しようとしているのかわからない仲間に、あるいは都市に暮らす人々に、同じように問いを共有してほしかっただけだ

だから、何をやろうとしているのかわからない。人からMOVEとその中心いる自分がそうした眼で見られても、あるいは仲間がオレの真意がわからなく、批判や中傷めいたことをいっても、動じることはなかった。それが問いを苦手とする人というものだ…そう思っていたからだ。

自らが動かなければ、人の心は動かない。なにか形にして示さなければ、理念や方針、本願といったものを理解するための問いを持たない。
 
言葉や理屈で何度説明しても、いくら語り合っても、それが腑に落ちるには、手間と時間がかかる。関わり合うひとり一人が何がしか汗し、苦労し、何かを犠牲にし、自ら問わなければ、なぜ、いまこれを理念とし、取り組まなくてはいけないのかがわからない。
 
まして、儲けや名声を得ようとする心があれば、自らの問いを汚し、活動を自らつぶすことになる。また逆に、正義だの、善悪だのといった軽薄な基準や慈愛の装いをした、無知で単純な憐憫や同情は、問いそのものを生み出せない。自らを行き詰らせ、人も息苦しくする。
 
表には出さないまでも、自ら血をながし、腹を切る覚悟、刺し違える決意がなければ、そうそうに問いによって、人の心を動かし、地域を変えていこう、社会を変えていこうという心を呼び覚ますものではない。

MOVEはやっとここにきて、問いを持ち、問いを共有できるようになってきた。その分、反論や異論、意見や言い分も増えている。それは望むべくことだ。その力が増せば、そして、それを体系づけて語れるようになれば、やがて行動原理が生まれてくる。
発足当初に出会い、二つのイベントで新しく出会った人々。その苦労があって、いままたあたらな人々の出会いが生まれている。それを生かし、発展させるために、イベントとはステージの違う、問いを共有するための新しい場をつくる。

それがSmart City MOVE   離れた人々が時間と距離、空間を越えるための最少のエネルギーで出会える、小さな町だ。

問いを投げかけ、問いを持ち、答えを求めて自己増殖していく、生き生きしたにぎわいのある、人々が忘れ、取り戻せないと思っている、あの町だ。

あの町は第四空間から、問いをもとに、第一空間の痩せ細った現実の町を変える、新たなリソースとなっていく。