秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

演劇的な空間とサンタクロース

明日、いわきに向うチケットを買いに渋谷へ。帰り道は、徒歩で表参道までいき、だいぶご無沙汰していた大坊珈琲店へ。
 
久々の来訪。離れている席に座るといつもなら店員さんに運ばせる珈琲を、大坊さんみずから運んできてくださる。それだけで店主の客への思いが伝わってくる。「お久ぶりです」。その言葉だけで、ほっとする。
 
オレがここは茶室だ…と、人にいうのはこういう言葉にない接待の心、所作があるからだ。もちろん、それがわかる人にしか大坊さんは、それを示さない。心より心に伝ふる花…。日本人でなければ、そして、静謐な構えのある人間でないとわからない世界。
 
その静謐さと一杯に込められた珈琲の味わい…それを楽しむために、ここにくる。そう…はや、38年通っている。向田邦子さんがこの店を好きだったのは、オレときっと同じ、この静謐な茶室が好きだったからだと思う。
 
帰り道、いつもいく路地を通って帰ろうとすると246とL字になっている路地のスペースに、昭和の小さな駄菓子屋のような風情ながら、手作りクッキーやオシャレな花屋、老眼鏡、煙管といった売り場がしつらえてある。
 
ちょいと先にいくと、個性豊かな屋台やキッチンカーがならんでいる。どこかアメリカやヨーロッパの小さな田舎町の出店風。ラーメンもあるが、ショットバーやイタリアンカフェもあれば、天然酵母のパン屋さん、定食屋さん、八百屋さんまである。
 
聞けば、10月からスタートして、再来年の3月までらしい。空地になっている土地の地権者が次の建物を建てるまでの限定開業のようだった。
 
天然酵母のパン屋さんに入ると、リンゴのパンには、福島のリンゴを使っていると説明される。「すばらしい!」と思わず、声が出て、檜町公園での「福島・東北まつり」のイベントの宣伝w ここにもささやかに福島を応援してくている人たちがいる…。
 
帰り道、時間に急かされず、歩いてみるものだ。大坊さんのさりげない気遣い、小径に咲いたヨーロッパ感覚の出店…いいものに出会える。

FBにアップすると、仲間のKさんが、「秀嶋さんは屋台みたいなところが大好きなんですね」とコメントしてくれていた。オレがこうした世界が好きなのは理由がある。
 
大坊珈琲店もそうだが、この出店も、日常の世界とは別の空間をそこにつくっているからだ。茶室がそうであるように、通常なら、さら地である場所に、現実的な店ではなく、仮設のつくろいの店が出現し、その店の連なりがひとつの異空間を出現させている。
 
普段の生活では縦に置いてあるものでも、それを横にしてしまうと違う空間と時間を新たに生み出すことができる。そこにないはずのものを、置いてしまうと、あるべき日常の空間が異空間に変わる。つまり、茶室も、屋台や出店の空間も、すごぶる演劇的な世界なのだ。

そうした空間に日常の中で出会うとオレは心が躍る。わくわくして楽しくなる。ハレとケという人の生活にある非日常と日常。そのダイナミズムにふれるとオレだけではなく、だれもがわくわくし、楽しくなるのだ。

明日は、半年ぶりにいわきにいく。被災した豊間小学校で仲間の団体がクリスマスイベントを企画した。それに誘われ、応援ボランティアのひとりとして参加してくる。被災という非日常がいつか日常となってしまった豊間・薄磯・沼ノ内の子どもたちに、別のわくわくする非日常を届けにいってくる。

人生で初めて、サンタクロースの衣裳を買った…w