秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

愚か者よ

乃木坂から代官山まで夕方から往復2時間半のウォーキング。
 
朝、代官山のスタジオに自転車で素材を持っていき、午前中スタジオ立会いだと思っていたら、機材がふさがっていて作業ができない。夕方6時過ぎに確認のために再度、顔を出さなければならなくなった。
 
ならばと、代官山まで、運動がてら歩くことにする。スタジオに入って、一時間半ほど音付けの確認作業をやって、再び徒歩で乃木坂へ。行きは、時間がなく、みっちり1時間急ぎ足だったが、帰路はゆったり、店を冷やかしながら歩く。
 
表参道まで来たところで、大坊さんの顔を見ていこうと思い立ち、大坊珈琲店へ。平日夜の時間は、比較的大坊さんが店に出ている。いつもの温めで、濃いめのブレンドを頼み、しばし、カウンターで一人、茶室を味わう。
 
いつもなら、帰路、大坊珈琲店脇の「古道」という増田屋がやっている蕎麦屋と「宣伝会議のある路地を抜け、乃木坂まで裏の近道を行くのだが、風は冷たいが歩いているので身体が温かい。
 
そのまま、246添いに歩き、イワがやっている美容室を仰ぎ見、奴の姿を確かめつつ、外苑を抜けて、イタリアレストラン「ラピュタ」のあるユニマットビルの角を曲がり、青山霊園の桜並木を歩く。
 
一人、夜桜見物。オフィスに戻ったときは、もう9時半近くになっていた。
 
音付け作業の途中に気づいたテロップミスを編集し直し、一服するつもりでテレビをつけると、三谷幸喜のつまらない特番ドラマやオレがいつも昭和が描けてないと批判している「三丁目の夕日」の再放送、それにお笑い番組しかやっていない。
 
戦前や昭和のドラマをやるとき、昨今の作品は、内容が昭和を芯から捉えていないばかりか、登場する俳優の髪型、衣裳、所作がまったく、なっていない。
 
戦前、戦後復興期の人々が登場しながら、現在の長髪のまま出演させるというのはざら。下手すると、主役級の一兵卒や下士官、将校たちたちまでもが、長髪のままというのも当たり前になっている。
 
俳優が所属するプロダクションの圧力に押され、ドラマをきちんとつくろうという姿勢がないから、そうしたちゃらいことになる。いくら内容がマジメなものだったとしても、それだけで作品は腰砕けになる。
 
つくり手に学習や研鑽がないからだ。それで反戦や貧しくも美しい日本人の心が描けるとでも思っているのか。
 
それでは、あの時代を必死に生き、亡くなっていた多くの方々、理不尽にいのちを奪われた人々に失礼ではないか! と、怒りさえ覚えてしまうのは、オレがかつて隼戦闘機や零式戦闘機に搭乗していたからか? サイパンで玉砕したからか? 沖縄の玉砕の悲惨をこの眼で見たからか? いやいや、明治維新を生き、日露の開戦では、203高地での乃木稀典の無謀な突撃攻撃で、ロシアの機銃掃射で頭をふっとばされたからか?
 
それくらいの実感と悲しみと怒りと、いのちへのいとおしさを持って描け!と、マジ腹が立ってきた。
 
大坊珈琲店にいるとき、営業らしき電話で、大坊さんにインターネットで店の紹介、宣伝をさせてくれという電話がかかってきていた。ネットに掲載するのは当然というふうに語る相手の話に、いつも穏やかな大坊さんが少し声を荒げていた。
 
やりとりに誤解があったようで、ついさっき店に来店した客らしく、おそらく下見にきて、いい店だからネットで紹介したいと思ったらしい。大坊さんは、素直に言葉を荒げたことを詫びつつ、「宣伝はお断りしているし、宣伝をしたいとも考えていないので…」と丁寧に断わっていた。
 
大坊さんらしいと思った。
 
オレがこの店を好きなのも、この店主の律儀で昔堅気の心意気があるからだと、改めて気づいた。本物を追求し、本物を提供することだけにすべてを尽くしている。時代や流行の波に乗ることも、迎合することも考えていない。確かなものを提供し、それがわかる人たちに支持されていれば、それで幸せなのだ。
 
確かなものを、確かに届ける。その基本がこの国からどんどん失われている。とりわけ、この数年はそれに拍車がかかっている。
 
宣伝はいらないという愚か者、意味もなく2時間半もかけて歩く愚か者。
 
気骨ある愚か者が少なくなり、要領のいい愚か者があふれるこの国で、キミはどう生きていくのか。