秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

不条理の駆逐

先週末日曜日の「福島・東北まつり」のとき、「福島県を知ろう 八重の桜プロジェクト」をやっていたときだ。
 
そのあとのコンテンツにあった、喜多方市から参加した地元ローカルアイドルのおっかけをやっている中年のおじさんらしき人物が、トークの途中でステージ前まできて、「長い!」と一言捨て台詞のようにいって、おっかけカメラおじさんたちの中に紛れた。実に卑怯なクレームのつけ方だ。こちらが、トーク途中で、それに対応できないのをわかってやっている。
 
オレの怒りが爆発しそうになったのはいうまでもない。それは、自分の怒りだけではない。このイベントのために、来てくださった元NHKプロデューサーのSさんや会津から来てくださったNPO法人の理事長Iさん、市のプロジェクト推進のICさんに失礼だったからだ。
 
そして、なによりも、港区という場所で、福島のことをあまり知らない方たちに、福島を知ってもらうためにやっているイベント自体にケチをつけられたからだ。
 
おそらく、その人にとって、イベントのコンセプトや願いや思いはどうでもよく、早く喜多方の地元アイドルをみたい、写真にとりたいという気持ちだけだったのだろう。壇上から、その発言に苦言をいうオレに、また、ステージに来ようとしたその男性をうちのスタッフが止めた。
 
あとできくと、どうやら福島、しかも喜多方からきた人物らしい。「おまえらに福島のなにかがわかるんだ!」と息巻いていたらしいが、わかってほしくないと思っているのは、あんたのような、AKBもどきの少女を追いかけているロリコンで、暇なオタクくらいのものだ…とオレなら喧嘩を買っていただろう。疲れて気が立っていたので、ヘタをすれば、ボコボコにしていた。正論はあっても、それでは問題になった。スタッフがそんなオレを止めたのは正解。
 
よくこうした手合いがいる。福島のことをなにかいわれると、おまえらに福島のことをとやかくいわれたいくないと息巻く、輩がいるのだ。しかし、大方その実態は生産活動にもかかわっておらず、販売で生計を立てもなく、そして、震災の直接被害がなく、実感もないくせに、あるような顔をしている人物たちが多い。

人はいろいろだといってしまえばそうだが、いわきの海岸線の被災の現実や汚染された畑をいまでも耕し続けて
いる高齢の方の無言の姿を想像だにしていない人が、東京や関西、九州ばかりでなく、福島県内にもいる。だが、福島県に生きているがゆえに、その言葉の責任は重い。
 
実は、原発避難地域からの住民とそれを受け入れている地域の人々の間でも、軋轢や対立がある。それも、同じ被災者同士だとう関係を裏切るような言葉が生んでいる。
 
被災地といってもいろいろ。ひとつではない。被災者といってもいろいろ。ひとつではない。オレがいつもそれをいうのは、こうした現実を知っているからだ。きれいごとの言葉では埋められないものがそこにはある。津波や震災といった自然災害が不条理であるように、そこに巻き込まれた人々の生活にもその後、不条理がつきまとう。
 
それを糺し、不条理性を排除していくには、清潔さと潔癖さ、そして、希望と夢しかない。いまを楽しむ希望や夢ではない。明日を拓く、希望と夢だ。もちろん、そのおっさんにとっては、地元ローカルアイドルのおっかけがそれなのかもしれない。だったら、それを人に押し付けてはならない。まして、公共性を失ってまでもやってはならない。
 
それは、東電の社長や政府関係者に土下座を要求する一部の原発事故被害者と同じ。それをやる限り、国民的な共感は生まれてこない。廃棄物処理の受け入れ拒否も続く。
 
それ自体が非常識な不条理を、また生むからだ。福島県民であろうが、被災者であろうが、まちがていることはまちがっている。その毅然とした倫理の中でしか、不条理は駆逐できない。