秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

現実への直視

昨日、午後6時の報道で、いわき市水産課が始めた魚類の放射能線量検査の様子を伝えていた。検査の現場を地域外の人々に公開している。
 
バスツアーで集客しているが、観光地めぐりが目的ではない。いわきの農水産物の安全性をアピールするための取り組み。販売所では、検査数値を表示した農作物の販売をやり、福島を代表する「とまとランド」など生産工場や農地の見学も組み込まれている。
 
地道な取り組みだ。しかし、にぎやかな観光誘致や復興祭の繁盛ぶりばかりをアピールするやり方や報道に、いま人々の意識は引き始めている。現実はそんなに単純でも簡単でもないことを知っているからだ。そして、実際、にぎやいだCMや復興祭とは裏腹に、観光も農水産も日を増すごとに厳しくなっている。現実に目をつぶろうとするアピールの仕方は、かえって逆効果になる。

現実を直視する…それが人はいけないことのように思うときがある。地域の人も、そして消費者も、マインドがマイナーになるのを恐れるからだ。しかし、現実を知らなくては、それを解決していく道すじも見つけ出すことはできない。現実を知らなくては、頭で描いた実態の伴わない絵文字で、かえって人々の信頼を失うことにもなる。
 
現実を直視するとは、悲惨な現実ばかりをみることではない。人を見ることだ。人を知ることだ。人を知れば、決してそこにあるのがマイナーな要素ばかりではないことがわかる。人々がそれをマイナーで後ろ向きの考えだと思い込んでいても、丹念にそれを探れば、そこに、その困難の向こうを目指したいという欲求の芽が必ずある。
 
それに気づきを持てるか、持つための手助けができるかどうか…それが大事なのではないだろうか。地道な線量検査とそれをバスツアーの人々に地域の人々が直接紹介する。それは、バスツアーの人々への気づきだけでなく、地域の人々への気づきにもなっていく。
 
同じく昨日、浪江町の住民が一時帰宅したあと、居場所がわからなくなり、自死したという報道が流れていた。もうやり直しができない…自営業だったというその方は、避難施設でも不眠状態が続いていたらしい。精神的に追い詰められ、不安定な状態が続いていたに違いない。
 
いま避難施設や仮設住宅で、うつ病が広がっている。だれもが心に傷を負っている。それでも、懸命にマイナーであってはならないと踏ん張っている。しかし、その緊張の糸はいつまでも続かない。かえって、その思いが人を追い詰める。NPOや行政のサポートやケアも手が回っているところ、そうでないところの差は大きい。明るく元気な東北…がすべての人々のエネルギーにはならないのだ。
 
地域イベントをやろうと、地域外の人たちが復興祭などで声をかけてくる。しかし、現場の実状や人間関係もないところで、まるで自分たちのためのイベントのように強引に話を進める例があると聞いた。すべてがそうだとはいわない。だが、イベントだけやれば、それで物事が解決することなどない。
 
イベントをやるなら、イベントをやった次に、何を実現し、何を目指すのかを明確にしてなくてはいけない。そうしたビジョンのないにぎわいは、ときとして、現実への直視を忘れている。