秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

私たちはここに生きている

地域の人々にとって、観光客や旅行者が大挙して訪ねてきてくれる…というのはうれしいに違いない。
 
それはそうだ。人が来れば自分たちの商売がうまくいく。人がくれば、施設利用や宿泊、飲食以外にも、いろいろな形でお金を落としていく。さらには、自分の住む街が寂しく人気のない場所より、いろいろな人でにぎあう方が前向きな気分になれる…というのもあるかもしれない。
 
例年に比べ、今年の連休は東北を旅する人の数が増えたとテレビが伝えていた。震災で傷ついた東北に旅行という形でお金を落とせれば、それが結果的には復興支援になる…そんな思いもあるだろう。また、実家やその周辺に足が遠くなっていた地域出身の人がこれからはできだけ地元に足を運ぼうと考えたのかもしれない。

だが、原発事故の風評被害で福島は、一部を除いてまだ厳しい。どうしても家族連れ、小さい子どもを連れて…という気分になれない人が多いと聞いた。
 
いわきのスパリゾートハワイアンズが本格稼働した月期、開設以来の売り上げを出したらしいが、本来、家族連れを中心の施設。それが、家族連れもいるにせよ、その中心は中高年世代の団体旅行、フラガールのおっかけグループといった客層になっているらしい。宣伝力のあるこうした施設はそれでいいが、観光地というのは、実は、家族連れ中心でないとリピーターになりにくい。
 
団体貸切バスで施設に泊まり、その中でお金をつかい、帰りに近隣の施設とおみあげセンターに立ち寄る。お仕着せの行程。それでは、観光業者とそれに近い業者の中だけで客を回しているだけで、地域の個人商店や個々の店、人々とのつながりも生まれない。人のつながりが生まれない…ということは、地域を理解し、ファンになる人がつれくないということだ。
 
いまは震災の余波で、支援しよう、応援しようという気分がある。だからといって、その気分がこれからずっと続くわけではない。だが、来訪者に依存している地域の人は、数字が持ち直す、人が来るという現実に弱い。あれだけの苦しみと痛みを負っても、いや、負っているからこそ、とりあえずの賑わいにしがみつきたくなる。そして、いままで同じことを繰り返す。

時節の一瞬の風…という点では、かつてあちこちにスキー場やゴルフ場、団体対応の大型旅館ができたときと同じだ。それによって、日本の観光地は時代への転換が遅れ、多くが疲弊している。時代への転換とは、団体客や大型施設にだけ集まる集客、誘客の形ではなく、家族など個々のライフスタイルに応じて楽しめるソフトの提供へ大きく舵を切ることだ。

震災が教えたのは、団体依存やJRなど大手交通機関に依存した判で押したようなパッケージサービスの限界だったはずだ。しかし、少し復旧が進むと、また、大型施設頼み、交通機関頼みとなり、自ら地域の魅力を掘り起し、人々と直接つながる道の模索を忘れていく。

それはいずれまた、人々から魅力を失わせていく。これからの地域に必要なことはその土地にしかない魅力を掘り起し、発信することだ。いまいろいろな形で人が来訪していることはいい。しかし、それをチャンスに変えなくては意味がない。顔の見える付き合いから地域のことをよき一面もよくない一面も含め示し、そこに私たちは生きている…という姿を提供することだ。
 
生きているその姿こそが、地域の魅力のすべてを内包している。