秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

村娘と斎藤道三

強い南風。春一番は、すでに過ぎたが、昨日は春の嵐前の穏やかな一日。
 
この季節になると、由紀さおりの「春の嵐」という曲を思い出してしまうのは、なぜか。3月は、別れと出会いの時期だから、オレもこの季節、いろいろな人と別れてきた。その思い出が、いつも、由紀さおりの「春の嵐」を蘇らせる。
 
由紀さおりの「生きがい」「春の嵐」は、身勝手なオレのような男には胸をえぐられる歌。
 
午前中、内田、赤沼出演の作品の簡単な手直しを終えて、午後、村娘と築地の食堂へ。前々から連れてってやると約束していた。
 
プロデューサーのKさんから数年前に教えてもらった、隠れ家的な店。とはいっても、気取ったそれではない。知る人ぞ知るという感じの庶民的な食堂で、チャライ築地のすし屋などとは違う。家族経営の店だが、みんな無愛想。だが、魚がうまいし、安い。
 
この店に連れて行ったのは酒豪編集者R、物書きのMKちゃんに続き3人目。基本、Kさんから、この店のよさのわかる人間だけにしてくれよと釘を刺されているし、うまいものがわかり、魚をおいしいといってくれる人間しか連れていかない。
 
普段、三メートルしか歩かないという村娘。思ったとおり、地下鉄の階段を上がると息を切らす。のんびり歩いていると、ふといろいろな店に出会い楽しい。車ではなかなかできない、贅沢。加圧いのちの村娘にその楽しさを教えたかった。歩け歩け、村娘。
 
丁度、お気に入りの有田焼きのマグカップの柄をこわしてしまっていた。帰り際、食器屋で、ピンクの絵柄模様の珈琲カップを買う。ソンチョウ、これがいいよ。という村娘の言葉に素直に従う。いつもボコボコにしているから、これくらいは奴のいうことを素直に聞こう。
 
電車に乗り、徒歩で町を散策し、季節の風に身をまかせる。そうすれば、心もなごむし、いやされる。それが、人として、人の生活として、実はとても大事なことと、車をやめて、初めて気づいた。
 
そんな当たり前のことを、当たり前にやった一日。そういえば、MKちゃんを連れていって以来、のんびり銀座をブラブラすることもなかったなぁとふと、気づく。オレにしてみれば、久々の休日。
 
なんでも、村娘は、斎藤道三が憧れの人らしい。信長でもなく、政宗でもなく、まぁ、ずいぶんとマニアックな趣味だが、負けない強さに男の魅力を感じるとか。
 
しかし、そんな奴、いまどき、いないだろう。ま、オレたち映画の世界でいえば、ジャック・ニコルソンのような感じの奴だと思うが、現実に側にいたら、周囲がびびるし、引く。
 
なかなかそういう奴とは出会えないことは、村娘もわかっているようだが、何がしか生活を変えようという思いがある。と読んでいる。そういう人は、これまでの世界から新しい世界へ踏み出すことで、いままで出会えなかった人と出会える。
 
MKちゃんが名付けた、イタコが村娘に受けている。
 
イタコの言葉は、MKちゃんもそうだが、なかなか、すぐに信じてもらえない。が、しかし。素直で、実直で、自分の世界をもっと広げようとしている村娘の、斎藤道三との出会いは近いと読んだ。
 
お手軽に妥協しないことで、同世代の楽しげな姿に羨望の思いや孤独感を感じるかもしれないが、それは、斎藤道三と出会う前の一つの試練と思えばいい。
 
だが、車ばかりでは、それとも出会えない。春の心地よい風を感じ、自分の足で歩けば、春の嵐の向こうに、THE MANはきっと現われれる。