秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

FOR THE ONE

「いろいろと不満や愚痴をいってもしかたがない。いまある現実を受け入れて、その中でできることを一生懸命やり、ひとつひとつ乗り越えていくことだと思います。…だから、いっしょにがんばりましょう」

昨日、財界人の新年会の席での、テレビの景気予測の取材に応えたジャパネットタカタの高田社長の言葉。

苦境や困難をどうとらえ、立ち向かっていくかの考えを実にコンパクトに、だけど、印象的に語っている。

高田社長はもう70歳を越えている。外見からそう見えない若さは、そうした生きる姿勢や考え方に由来しているのだろう。

昨日は、移転予定のマンションの若い営業マンのKさんが、これからの手続きや手配についての説明にきてくた。実は、この部屋にしようと思ったのは、クリエィティブな空間の魅力もあったが、同時に、Kさんの人柄、第一印象が大きかった。

説明にきた、Kさんが最初にいったこと。「まず、秀嶋さまの条件面での要望を聞かせてください…」。
つまり、賃料や入居時の費用について、希望をいってくれというのだ。いままで、いろいろな不動産仲介の人と話をしてきたが、値引き交渉から始める不動産仲介業者は始めてだ。

こちらがこれくらいに値下げしてくれたらというと、「では、それ以下の値段で交渉します。こちらで練りますから、まかせてくれますか」という。

住居として使えるにしても、オフィス仕様だから、洗濯機置き場がない。あらたに設置することはできるが、出るときには、現状回復が必要と聴いて、それはやめにしよう、あまり居心地がよくなると、また、相模原に顔を出すことも減るだろうからというと…

「ぜひ、これを機会にオフィス機能を中心に利用していただいて、ご家族との時間を大事にしていただればと思います…」

おいおい、それは、この間、オヤジが心配してオレにいったセリフと同じではないか。洗濯機の設置はあえてしなくても、という思いが言わせたのだろうが、オヤジと符号する言葉に、この人は、オレに教えを与えてくれていると直感する。

この界隈にしては珍しく、近くのお蕎麦屋さんがやっているコインランドリーがある。ちょっとの我慢で、すむことならば、それがいい。学生時代の感覚に戻ればいいことだ。

せっかくならと、ついでに敷金の交渉もお願いする。昨今の景気の影響で、この界隈の古いマンションは、借り手がない。一度、出られてしまうと半年以上、中には一年過ぎても入居者がいない状況の部屋は珍しくない。

そうした中で、Kさんは、入りやすい条件のために、入居者の本音を聴き、そして、オーナーを説得しようとする。仲介業者にすれば、入居されてナンボだし、オーナーにしても同じ。しかし、かつて、右肩あがりの中で、都心の一等地にマンションを購入したオーナーさんたちは成功イメージから抜けられない。

まして、高い金利の頃にローンを組んで購入した人も多い。だから、なかなか実状、現実を受け入れることができないのだ。

その狭間で、なんとか部屋を埋めよう、預かった物件を喜んでもらえる条件で提供し、結果的にオーナーにとっても満足のいくものにしよう。それに励んでいる姿がKさんの言葉や態度から見える。

まさに高田社長の言葉をそのまま、実践している。

引越しの関係で、OA機器の会社に連絡をしていたのだが、担当の女性営業のNさんから、セッティングを会社でやるより、ご自分でやられた方が…と、2、3万の費用を抑えるための知恵を出して伝えてくれる。

配置がわからないから、ランコードの長さ調整などがあるので、結局、おまかせにしたが、わずかな費用に恐縮して連絡をしてくれる。

少しでも、よりより形で。その思いが、彼女のまだたどたどしい説明の中から伝わる。

これも同じだ。

いまある現状に不満や愚痴をこぼすのではなく、いま自分たちにできることを精一杯やる。だれかのために、何かのために、一つの願いや思いのために、尽くす自分になる。

それは、うちの会社の信念に掲げているもの。FOR THE ONE PROJECTとは、そうした意味をこめた社名。

移転を期に、それに立ち返り、忘れるな。

大事なことを、若い人たちに教えられる年明け。