秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

演劇のテンション

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

維新派の上演チケットの受け取りにいった近場のセブンイレブン脇の路地でみつけたビル

オレは、昔からヘンな癖があって、レトロ調の建物や昭和の匂いのする路地裏とかに、めっぽう弱い。どうでもいいようなものを、ずっと長く押入れの中に仕舞い込んでおく、などということもある。

実は、あまり語っていないが、骨董品も大好きで、阿佐ヶ谷に住んでいた頃、芝居の小道具探しで、よく骨董屋に出入りしていた。意外に、阿佐ヶ谷は古いものを大事にする町だ。

その頃、舞台のために購入した六角時計は、まだ、相模大野の自宅に置いてある。大学に入ってから、息子がオレの部屋を占拠し、時代物のよさのわからない奴は、時計をはずして、書庫の奥に仕舞い込んでしまいやがった。オレのお気に入りの英国調の足つきの本棚は、さすがに置いてくれていはいるが。

骨董品やがらくた市に並ぶような品々や古着には、それを使った人の生活の佇まいと思いがある。使われいた頃の時代の匂いもある。それを手掛かりに、想像を膨らますのが好きだ。

それは、オレ自身、高度成長期から現代に至るまで、生活のステージがめまぐるしく変化する中で生きてきたから、置き忘れてきた道具や生活品、使わなくなって捨ててきてしまった思い出の品々の記憶があるからだろう。

数年前、新潟県十日町で、古い生活道具をひっくり返し、明治、大正、昭和初期の道具や箪笥を並べて、ある記念館の空間プロデュースをした。そのときも、箱膳や漆の椀、白鳥とっくりといった生活道具を手にとりながら、それが現役で使われた頃の人の感触をたどって、なんともいえない、せつない気持ちになったのを覚えている。

市井の人々の生活道具が失われていくように、市井の人々の名もなく、貧しく生きた、いのちの歴史も忘れられていく。時というのは、その意味で、途轍もなく残酷だ。

着物ひとつにしても、箪笥一竿にしても、そこには、母から娘へ、祖母から孫へといった、思いが込められていることもある。しかし、時は、そうした思いも希薄にするし、生活のステージが変ることで、物や道具を通して伝えられる、いのちのバトンをどこかで、寸断したりしてしまう。

昨日、『官僚たちの夏』に代わって、日曜劇場で『JIN』が始まった。また、コミック原作かとあまり期待して見なかったが、特番の2時間を吸い込まれるように見てしまった。

基本、オレは、時間の不可逆性を超えたドラマに弱い。つまり、時間と空間の並列な概念を超えた、タイムスリップや記憶の蘇りといった時間軸をとるドラマに弱いのだ。

それは、演劇において、見事な演出手法で不可逆性を乗り越えられると、すごいとオレが感動するように、かつ、自分自身台本を書き、演出する中で、それが見事に舞台の生理を利用して具現化できると、オレって才能あるなと自賛するように、「時間を盗む」というのが演劇の真骨頂だと思っているオレのようなタイプには、たまらない展開方法なのだ。

それで最初に感動したのは、民芸が初演した、アーサー・ミラーの『セールスマンの死』。

人の一生というのは、一見、偶然と思える、必然の積み重ねで、その色合いと方向が決まる。ifがないのが、人生で、後々、あのとき、こうしていればという後悔はあっても、そのとき、一瞬の人や出来事との出会いで、いかようにも変る。

また、人が、ifと思っている過去の記憶そのものが、実は、実在しない記憶であったり、ifという選択の余地もない、人生の転換点であったりする。ことほどさように、人の記憶というのは、ある意味、いい加減で、支離滅裂。しかし、それを認めると、辛くも支えているいまの自分のアイデンティティが喪失するから、記憶の誤謬を容認し、記憶を歪曲しながら、実は、人は生きている。

それに真摯に、ドラマを書く、構成している作品は、作家の甘えがなくていい。

チケットの予約をした、維新派は、関西を拠点に活躍する、野外劇では有名な劇団。東京での上演はあまりないのだが、数年前に東京で上演があったとき、宮台真司に誘われたことがある。丁度、台本書きの最中か、撮影とぶつかっていて、同行できなかったのだ。

毎月の演劇案内冊子を見ていて、維新派の6年ぶりの東京公演とある。ということは、宮台氏に、ぜひ見て欲しいといわれて、それだけの歳月が経っているということだ。

宮台氏は、オレがHPに掲載している花塾の俳優訓練のレポートを読んでくれて、オレなら、維新派の舞台のよさがわかってくれると思ったのだろう。

このところ、舞台上演のことやなにや考えているせいか、ふと見つけた公演情報に眼がとまる。古びたビルを見て、ああ、こういう外観の劇場があればと思ってしまう。

演劇のテンションが高くなっている証拠だ。