秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

孤独の騎士

亀井静香が、金融ばかりでなく、経団連など財界にもかみついている。

「家庭内殺人事件が増えたのは、大企業の責任である」というのは、文脈がないから、唐突で、どういう連関があるのかと、その発言の真意やねらい、そして、根拠を疑う声が上がる。

亀井のいいたいことは、こうだ。

アメリカ政府から押し付けられ、それにしっぽをふった、小泉、竹中路線は、日本人の精神性や文化を背景とした、日本的社会構造、そのものを寸断した。それによって、日本社会の持つ、相互扶助や共同体社会の絆が失われた。

その構造改革によって、これまで組合の圧力を意識し、安易に社員のリストラや首切りができなかった大企業が、ある意味、、企業再生のための構造改革というお墨付きをもらうことで、次々にリストラを始めた。管理職に始まったリストラは、一般社員にも及び、それが、非正規雇用労働者の増大につながった。

大企業を中心に進められた、この構造改革は、1997年に経団連が発表した、「日本的経営の未来像」を根拠にしている。終身雇用の廃止、競争主義の導入、非正規雇用の活用。これまでの日本的な経営から脱却し、アメリカ型の雇用社会、企業社会をつくらなくては、これからの国際化、国際競争に太刀打ちできないといものだ。

バブル崩壊後の空白の十年で、企業の内部保留資金が減少し、危機感を感じた経営陣は、収益率と含み資産を増やすために、賃金負担を軽くしようとし、非正規雇用者の活用という名目で、正社員採用を控え、低賃金の非正規雇用労働者を大量採用する手法に出たのだ。

それは、同時に、正社員の間に、いつリストラされるかわからないという不安を増大させた。その不安を利用して、能力主義、競争主義を大胆に導入した。これまで、仲間だった社員同士の関係は、敵対する関係、いつ裏切られるかもしれないという疑心暗鬼の関係に変ったのだ。上司の機嫌を伺い、上長には逆らえないという企業内の空気をつくり、社員のモチベーションは下がり、企業への帰属意識は希薄になった。

上司や上長は、自分の責任回避のために、部下に責任を押し付け、自己を律することがなくなり、企業内のコンプライアンスは地に落ちた。そこに偽装、隠蔽などといった、モラルハザードが平然とまかり通るようになる。国際競争力を高めるという美名は、名目に終わったのだ。

結果、正社員の家庭では、ストレスを抱えた父が、家族にそのストレスをぶつけるということが起きる。それは、子どもにとって、家庭は、心やすらぐ場ではなくなってしまうことだ。一方、リストラされた社員の家では、住宅ローンや子どもの学費など、これまで、大企業の高い年収で組んでいた生活の基盤が崩壊し、妻もパートで出るしかなくなり、家庭内は、ギスギスした空気に変る。

正規雇用にいたっては、生活保護世帯より低い年収で、月12万以下の生活を余技なくされる。だから、生活を変えようにも変える手立てがない。何か、新しい技術を習得するにしても、その金も時間もない。
とりあえず、いつクビを切られてもおかしくない不安定な立場がゆえに、長時間でも、低賃金でも、しがみついて働くしかないからだ。そこには、社会からはじきだれたことへの恨み、つらみが募る。

ことほどさように、働き方、働く形は、結果、家庭の生活の姿にすべて反映する。競争主義の殺伐し空気は、学校教育にももちこまれる。

ささいなことで、イラつく、ささいなことで、キレる。そうした生活環境をつくってきた元凶はどこにあるのか。

亀井はそれをいいたいのだ。ちなみに、経団連会長の御手洗会長が社長をつとめた、キャノンは、年間30人もの自殺者を出している。これは、年間50人のトヨタに継いでいる。

人の人命よりも、企業、企業上層部にいる、ごく一部の人間たちの生活を守るという企業精神が、現実に、年間34,000人以上の自殺者を出す社会をつくっているのだ。

ついこの間も、同じ日に飛び込み自殺が2件もあった。9月決算の時期。そして、自公独裁政権時代に、8月選挙を有利に進めるために、企業に雇用促進のための特別緊急融資を行い、3月決算期に失業者が増大しないような対策をとった。しかし、これは、半年間の期間限定措置。3月、6月の四半期段階で、すでにリストラを告げられていたサラリーマン、非正規雇用者はおおぜいいる。

9月過ぎ、10月以後は、失業者数は、5.5以上、8.8%にまで上昇するといわれているが、実質は10%ににも及ぶという予測もある。

毎年、決算期、年度末になると、首都圏の電車が止まる。それが、何の不思議も感じられず、年中の歳時記のような風景になっていることを、人々はどう思うのか。

先進国で第一位の自殺者数を出す国で、人々は幸せでいられるのだろうか。それを当たり前と感じるような社会をつくった、責任は、明らかに、金融業界の自己保身を始め、大企業による雇用の流動化にある。

社会的使命や役割、多様ないのちを生かすという社会的役割を、社会を動かすものが忘れたとき、社会はまちがいなく溶解へ向かう。

それに立ち向かう、亀井静香を孤独な騎士にしてはならない。