秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

国をいとおしみ、育む力

消費財、生活用品の価格が急激に上昇している。だが、一部大企業をのぞいて、中小零細の賃金はそれに追いついていない。

正規雇用は増大の一途だ。

批判をかわすために、雇用保険社会保険に加入させ、形式だけ正社員雇用したようにみせかけ、じつは、賃金体系は非正規雇用のまま。当然ながら、手取りは少なくなり、生活は圧迫される。しかし、仕事を失いたくないために、非正規雇用者はこれを飲んでいる。

10年前、私が監督した映画「見えないライン」(企画制作:徳島県/製作:東映/主演:三田村邦彦)で取材したときの状況と同じで、かつ拡大している。

20年ほど前、非正規雇用を促進したのは、経団連だ。そのときから、その受け皿となる派遣企業が登場し、非正規雇用が定着すると膨大な利益をえている。

例のパソナ問題、竹中問題、さらには、いま財務大臣をしている麻生グループは選挙地盤の九州でこの派遣ビジネスで利益をえている。

正規雇用の増大がそのまま政権の中枢の利権になる構造ができあがっている。

消費財や生活雑貨の上昇は、海外からの原材料価格が高騰していることがひとつの要因だが、それだけでなく、価格上昇に跳ね返らせないと経営が厳しくなっている中小卸や販売店の実状も重なっている。賃金上昇にはとても手が届かない。
 
一方、住民税や健康保険料といった生活税が一気にあがっている。介護など社会福祉負担がきているからだ。
 
また、消費税の増税負担は消費者だけでなく、中小零細企業に重くのしかかっている。来年からはこれが10%となり、より負担は大きい。福祉増税の名目だったはずが、社会福祉の要である生活保護や年金、高齢者介護保障はますます減額される。

当然ながら、原発事故の始末は、激烈に値上げされた電気料金で庶民にツケが回っている。福島や新潟といった地方に、原発を押し付けてきた都民や関東圏の人々にとっては当然の負担といえなくもないが、これも消費者だけでなく、中小製造業、加工業には大きな負担。
 
その負担を軽減するからと原発再稼働の理由づけにも利用されている。

いま、アベノミックスなどという稚拙な造語経済用語を口にする人は激減した。そのようなものは、富の集中と都市の繁栄の集中だけで、地方、地域、中小零細や町の商店にはなにも還元されないことが自明になってきたからだ。

一方で、ODAなどの海外無償補償、有償補償は、首相の外遊のたびにばら撒かれている。知らない人も多いが、こうしたODA費用を使うのは日本企業、日本の海外進出企業だ。つまり公共事業と同じ構造。

さらには、以前から問題になっている行政改革、省庁改革、定数削減を含む国会改革はまったく進んでいない。

それどころか、新たな省庁が増えている。国政では湯水のように国民の税金が使われているのに、野党もまったくといっていいほど、これを糾弾しない。

国の要は税だ。税がとれる経済システムをどうつくるかだけではなく、国政が税をどう使わないようにするか、限られた税をどう振り分けるかを考えることなのだ。

それは国民の生活をどう守り、育てるかにつながる。結果、それが未来への希望や夢の一石となっていく。

中国で改革開放がいわれたとき、鄧小平は上海など、沿岸部都市が発展すれば、内陸の貧農にも富は行き渡るといった。統制社会主義経済から統制自由競争経済への転換は、その言い訳を必要とした。
 
だが、いま中国は世界でもトップの格差社会となっている。富をえているのは14億の1億から2億の人々に過ぎない。結果、報道には載らないが、テロや暴動が各地で起きている。じつは、鄧小平はそれがわかっていた。そして、いま汚職と政権の汚濁があからさまにされつつある。暴動を抑えられなくなっていきているからだ。

日本人は我慢づよい。そして、自ら権利主張をしない。すると不利益を被ると怖れ、権利主張しないか、そうした自己主張を無知蒙昧な人やサヨクがやることと勘違いしている。

そうしたいなら、それはそれでいい。だが、その権利主張や生活保全をいわないことは、自分の次世代の未来をつぶすことだ。

やみくもに苦しいというと、それはおまえのせいだという人がいる。では、聞こう。おまえは、だれの力もかりずに、いまの富を築いたのか。おまえは、この先、重篤な病や親の介護、自らの痴呆や介護を必要とはしないのか。

そして、おまえが築いた富は、これからも子どもたちに引き継がれる保障と未来はどこにあるのかと。

他者の苦しみや痛みを通してしか、人を、地域を、国をいとおしみ、育む力は生まれてはきはしない。