秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

QOL

震災後、仕事の質と内容を変えなくては…と感じている人は少なくないだろう。
 
それは、回復基調に乗るかな…と感じていたところに、震災があり、同時に株安、円高に拍車がかかる…といった経済情勢に対して、どう対応するかということもあるだろうが…
 
いままでのようにはいかなくなるぞ…という将来不安と身構えが、仕事や生活の質と内容を変えようという情緒を導いているともいえる。
 
生活の質向上…それは、60年代アメリカの公民権運動から生まれた言葉。QOL(Quarity Of Life)のこと。日本でこの言葉が流行語のように使われるようになったのは、バブル期からバブル終焉へ向かう時代の医療現場だった。
 
そこからInformed Concent 医師と患者との合意形成の重要性なども叫ばれるようになった。
 
しかし、皮肉なことに、黒人解放運動を通じた、人として当然の基本的人権をどう守るか…そのために生活の質向上は不可欠だといった理論は、この国では、医療の選択の自由に名を借りた、高い負担によってより質の高い医療が受けられるというバブルらしい展開に呑み込まれていった。
 
再び、注目を集め始めたのは、格差が生まれてからだ。
 
派遣やパート労働など非正規雇用で、福利厚生も満足な条件が与えられず、場合によっては生活保護世帯への支給額、年間150万円を下回る生活を余儀なくされている人々。あるいは、中高年の単身者で、病気や怪我によって、社会への適応を奪われてしまった人々。単身女性の生活苦…。といった問題に生活の質向上が必要という視点。
 
しかしながら、雇用促進事業や労働法の改正などの取り組みはされながら、現実には、就職難から非正規雇用は進んでいるし、正規雇用になっても賃金が変わらないまま、かえって、福利厚生費を差っ引かれる分、より生活が苦しくなり、正規採用を辞退するという現象まで起きた。
 
そこに震災。被災地には、こうした非正規雇用の人々もいるため、正規雇用を含め、二重、三重に雇用そのものが奪われるということが起きている。
 
ここも皮肉なことに、被災した人々を優先雇用するという政府方針により、避難先において、もともとそこに暮らす人々の雇用が少なるという現象を生んだ。雇用環境は十全ではないのだから、玉つきのようにはじかれる人が生まれるのは当然。
 
つまり、生活の質向上はここでも達成が難しくなっている。

生活の質向上が公民権運動の中で重要視されたのは、そうしなければ、将来不安や治安が保てず、社会からあぶれる人々を増大させ、それがまた消費の低迷や雇用の機会を失うということを知っていたからだ。
 
アフガン及び中東の問題においても、世界各地での紛争や市民蜂起においても、問題の根源にあるは貧困。
 
正当な権利主張が認められない、あるいは、人々が救済されない、自立できない社会は、希望の喪失ばかりでなく、治世というものの根幹を成立させなくなる。

今回の内閣改造…そこに、この危機意識はどれくらいあるといえるのだろう。