秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

死を問う

お彼岸イベントの相談を受けているKさんと夜、事務所で打ち合わせをする。

Kさんは、前にも紹介したが、仏具や埋葬関連商品の企画・製造・卸・販売をやっている三代目社長。地元赤坂氷川の出身で、ビルを何棟も所有する資産家。しかし、気取った様子は片鱗もない。

実に気が利くし、気が回る。年輩社員が多いせいか、年上への気遣いも半端ない。もう40過ぎだが、青年然としていて、これが日本のよき男子という感じなのだ。

それに、ボランティアでお金にもならないイベントに、仕事同様、必死に取り組んでいる。

昨夜も、工場のある埼玉から事務所に駆けつけたのだが、東京駅で買ってきたという大福をおみあげにくれた。毎度、うちの事務所を訪ねる度に、ちょっとした気遣いのみあげを持ってくる。そうした、配慮、気遣いを怠らない人。商売が繁盛するのも頷ける。

で、パワーポイントで編集してきた写真を見せながら、オレが書き下ろしたポエムを取り込む。取り込んだところで、これもオレが以前別のイベントで使用した曲と合わせる。ここは、短い方がいい、長い方がいいとその場で調整。かれこれ1時間以上、男二人、夢中で作業にふける。

Kさんは、本番のイメージに近くするために、アロマのロウソクや線香まで持参。明かりを落として本番さながらの雰囲気を演出する。つまり、彼なりにシュミレーションをしているのだ。その一生懸命さは、端で見ていても気持ちがいい。

オレたちプロは、構成台本を書き上げる中で、ほぼ、本番のシュミレーションはできあがっているのだが、素人の彼は、実際に絵や形にしてみないと、体感できないのだろう。しかし、それに夢中な姿が、彼の手抜きをしない人柄を表している。

ふと、どこか、オレの従兄弟に似ているなと思う。いま新潟の十日町で仕事をしているが、奴も、一つことをやるとなると、あレこれシュミレーションをして、自分の世界をつくる。それでいて、周囲の気遣いを忘れないし、自分の足りないところを補う才能を見つけ出すのがうまい。

人を使い、人をまとめる上では大切な人間的要素だ。先天的に人の上に立つ宿命を持った、そういう人間を見ると、自分の未熟さを痛烈に感じる。脇役に徹しながら、ちゃんと自分の世界を構築し、形にできる人間というのは、こういう類の人のことをいうのだと思う。

夜も9時を過ぎ、当然のように飲もうということになるが、変態系も好きなKさん、六本木のSMパブはどうかという。いやいや、いくら、オレが変態クラブで、下ネタ好きとはいえ、酒を飲む場まで、そっち系は無理。かなり、オレを連れていきたそうな雰囲気だったが、そこは、断わり、ハンナのばばあのところへ。

Kさんの人柄か、ここでもすっと店に溶け込む。なんでもババアは、最近、大島に遊びにいってきたらしく、大島の塩と大島バージョン100円ライターをくれる。気のせいか、ババア一層老いた。

二人で、結構日本酒を飲んで、コレドに誘う。やばいやばいと悲観的なことを書き、客へ救済のための来店を促しているMさんの、本当のところの様子を見ようと思ったのだ。

バーテンダーのYくん、奥さんのMKちゃんは、Mさんの演劇で稼ぐという発案から、この九月、十月、コレド劇団員として、芝居三昧になるらしい。Yくんは、オレが紹介した新宿のキースにも顔を出せないでいる。あれこれMKちゃんと話ながら、Kさんも遅れをとっていない。やはり、コミュニケーション能力が高い。

元気なKさんに教えられることが多い。他人への気遣い、一つことへの熱中。オレが40代の始めの頃は、いろいろとあったが、やはり、いまより元気がよかった。それを忘れてはならない、そんなことを教えられているような気になる。

死とかかわり合い、人の人生の最後をどう演出するか、残された者たちの気持ちを、どう形にするか。そんな仕事が、Kさんをそこいらの人間より遥かに魅力的にしているのかもしれない。

死を問い続けることは、生を問い続けること。
いまという時間を問い続けること。