秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

コツコツ セッセ…

単にシナリオライターだけの仕事であれば 物書きの仕事だけであれば

苦労して原稿を上げ 最後に「了」と打てば仕事は終わる

終わらないが、初稿を上げれば、後は制作者と丁々発止やることができるから 個人作業ではなくなる

二稿 三稿と進め ときにはむかつき ときにはなるほど納得し どうしようもなくなったときは多少

妥協しという作業をやれば それですむ 酒も飲める

が しかし

オレの仕事は 会社の仕事

本を書き終えたら スタッフへの連絡だ キャスティングだ 衣裳だ 小道具だ 現場費の準備だと

書き終えた瞬間から プロデューサーの仕事がはじまる

ひとりで 少なくとも5役はこなす とりわけ 自主制作作品ともなれば 予算を抑えたいから わが身

を粉にすればすむことならばと 自分の能力でできることは ほとんど片付けてしまう

また その方が早い

この技は 昔 制作会社の役員をやったときに身に付けた いや 身に付けさせられた技

ひとりで何役かをこなさなければ 中小の会社はやっていけない

団塊世代の慌しさを批判しながら 実は オレも仕事では慌しい バタバタと仕事をやるのは

いくつかどうしてもやりたい別の仕事があるから

酒豪編集者と約束している次ぎの書籍の台割もまだだし 今月中には劇場をどうするか決めてしまわなけ

ればならない舞台台本の直しと これを映画化するためのシナリオ それに どうしてもいま書き上げて

しまいたい小説といくつかの やりたい やらなければと思っているほかの仕事があるからだ

つい数年前まで 仕事をつくっているつもりが どこか他力で 仕事がくるのをあてにしていたところが

あった しかし 景気の停滞と同時に 映像やイベントの制作受注は減少する

昨年から今年にかけて オレの会社と縁のある いくつかの会社が事業を縮小したり 閉鎖したりしてい

る そんな時代に 他力では仕事にならない

だが 仕事をつくろうとしても いまのご時勢では なかなか仕事はつくれない

また 資金の調達もままならない 

ならば 打って出るしかないのだ 金はない 受ける仕事もない 人脈もないとあきらめていては 何も

始まらない ないないづくしの中で どう動き どう叡智を絞るか それにかかっている

叡智が浮ばないときは とにかく 人に会うのに限る 仕事を貰うために人と会うのではなく

知恵を授けてもらうために 人と会うのだ

最近 若い連中が よく面倒くさいという やな言葉を使う

オレもたまに使うが 面倒くさいの向こうにあるのは それをやっても無駄という感覚だ

しかし この世に生きて 無駄なことなど ひとつもありはしない

「犬も歩けば 棒に当たる」

歩く 打って出るためには どうすればいいか たかだか一人で考えこむより 人の知恵を借りた方が

いい 仕事に頑固一徹も必要だが 虚心坦懐も必要

だから 歩け歩け

そうすれば 何かがひょうんなことが生まれる 出会う

昨夜 オレのヘアデザイン担当のSと久しぶりに会った

オレの荒れた髪を直すためだ 底抜けにいいやつだが 45で彼女もいない 女に誠実で ウソがつけない

寡黙だし 大人しい しかし 仕事はしっかりやる

オレが 一度死にかけて 入院していたとき だいぶ回復して染めた髪の色が抜けてきているからという

と 病院まで来て オレの髪を染め直してくれるような奴

一応 看護師に許可をとって 洗い場を使わせてもらったのだが 始めるとあっという間に看護師たちが

集まってきて 「なるほどね そういうふうにやるのね」と奴のシャワーテクニックに関心していた

呼ぶ方も呼ぶ方だが それをやってくれる奴はすごい

昨夜は わざわざ来てくれたのだからとRedに誘う その道すがら めずらしく奴から語り始めた

渋谷の店の店員として働いていたのだが オーナーが居ぬきで 金銭もとらず 店を継いでくれという

話になり 今年の初めから オーナーになったという

都市区画整理で5年後くらいには 立ち退きになるらしいのだが その間は売上げも自分のものにして

前のオーナーは 継いでくれるなら 一円もいらないという そればかりか 立ち退き料の三分の一

は退職金として取っていいとまでいってくれたらしい

いろいろな元オーナーの事情があってのことらしいが そういう人でめぐり合い そうした運と出会う

のも 奴が暇な夜は 話に聴いた店に顔を出し 仲間や先輩をつくり そんな奴らが奴の店の常連とな

っていったから 奴のそうした自分にできる ささやかな努力があったからなのだ

コツコツ 懸命にやっている奴は 必ず 誰かがみている

大金を得ようとか 有名になろうとか 人より秀でようとか そうした欲ではなく ただ いい仕事が

したい その熱意だけ生きてきた奴らしい

このままひとりでいるとオカマと間違えられるぞ といつもの冗談をいいながら別れたが コツコツ セ

ッセとやれよと 逆に奴に教えてもらったような気がした

あれもこれもと焦っているオレは まだ 奴の域に達してない