秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

秀嶋組の矜持

ボランティアの勉強会が終り、夕方、新事務所になって初来訪のチーフ助監督のYと簡単な打ち合わせ。

香盤表もカット割もまだだが、Yが月末別の仕事で慌しいということもあり、台本と概要の説明だけはしておくことにする。

仕事は延期続きだったり、低予算の制作物であったりと、Yは以前からそうだが、相変らず、思うようにまわらない仕事をつないでいる。この数年、映像の制作関連の会社は、不況の中にあったが、リーマーンショック後は真綿を〆るように、ジリ貧になっている。

当然、制作予算は削られ、本数も少ない。少ないパイに大勢の会社が集まるから、当然需要と供給の関係でダンピング競争になる。結果、現場スタッフは、物心両面で仕事がきつくなる。

それでも、内容がクリエイティブなら、まだ共感もでき、その後の展開などもあれこれ期待できるのだが、クライアントの意向が優先される作品では、イニシアティブがとれないから、場合によっては、クライアントや意気地のない制作会社やプロデューサーに振り回されて疲れ切ってしまう。特に現場の末端で働くスタッフはそうだ。

この間、撮影日の連絡で照明のSに連絡したら、この時期、Vシネで身動きがとれないかもしれないといっていたのが、ルーティンの照明機材の管理業務だけになっているから、時間はあるという。

ルーティンの仕事と別に、照明チームをつくって仕事を請け負っているSは、劇場公開も配給も定まっていない、見切り発車の仕事につきあって、これまでも、ギャラの回収ができないことが何度かあった。

さすがに、今回は何本かの連作の途中、支払いが滞っていることで、自分でストップをかけたらしい。

この間、コレドのパーティで久しぶりに会った、某著名監督を祖父に持つ、Kも、前作の制作費や配給費が、中堅制作配給会社の会社更生法適用で、回収ができなくなり、監督の長男で社長でもあるオヤジさんが、東奔西走しているといっていた。それでも、じっちゃんは、新作を撮るといっているらしい。

映画を愛し、いい映画を撮りたい、残したいと願いながら、思うようにまわらない。

そうした話を聞くと、いまの日本映画の制作システムや観客のあり方に一言いいたくならないわけではない。

が、しかし。それは、オレたちが引き受け、乗り越えていかなくてはいけない現実なのだ。思うようにいかないからとくじけてしまえば、こちらの負けだ。思うようにいかないからと、相手や回りを責めてばかりでは、自分の技量も、器量も上がらない。

そうした壁があることは、実は、ありがたいことだと思う。そうした試練がなければ、悔しい思いをすることも、だから、もっと自分の仕事を磨こう、工夫しようという思いにもなる。人にも会い、自分の夢を語り、共感してくれるものかどうかを確かめようという気にもなる。

そうした中で、自分が構築しようとしいる世界が人々にとって求められているものなのか、自分のひとりよがりではないのかと、見つめ直すことができる。どうすれば、そうした壁を越えていけるのかの、知恵と出会うこともできる。

愚痴や非難だけでは、それと出会えない。

そこまでYには語らなかったが、せめてもと、家でのひとり酒のできないオレは、引っ越し祝いでいただいた酒を開けて、奴の心を暖める。

秀嶋組は、以前制作した作品でもそうだが、本編作品に入っても、現状のスタッフから一人の落ちこぼれも出さない。技量の問題があったとしても、ともに作品をつくりながら、ともに技量を高めていく。

不器用といわれても、それが秀嶋の矜持であり、それが秀嶋組なのだ。

オレのせめてものYへの元気づけ。