秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

切実な理解

たとえば、九州新幹線…。
 
開業のときに流された電通制作のCMは大反響を呼んだ。路線に生活する人々が新幹線に向って、いろいろな工夫とキャッチに意匠をこらして、歓迎の手をふる。

CMのために撮影されたのだが、実際に地域の人々が新幹線開業への期待と思いを込めて、手作り、手弁当で看板や横断幕…もろもろの飾りつけを用意した。
 
一瞬にして通過する新幹線に置かれた、特別のカメラは、それを逃さずとらえている。
 
そう。そこに込められた地域の人々の思いも。だから、多くの人が、わけもなく感動し、中には、涙をとめられなかったという人たちも続出した。CM賞も受賞している。

だが、結果的に九州新幹線がもたらしたのは、福岡市一極集中と地域の空洞化の一層の促進だった。

地域の人々の思いとは別に、おらが村にも新幹線がくる!という期待は、地域の資源や人を都市に吸収させるだけの動脈にしかなっていない。

いまに始まったことではないが、福岡市には、元炭鉱町、飯塚や田川、大牟田、三池といった過疎化と高齢化の進む県内の地域から来たという人が少なくない。
 
いまでは、長崎、佐賀、大分、熊本、鹿児島、宮崎、山口といった県外から職を求めて、福岡市内にきたという人は住民の半数を近くになっているのではないだろうか…

安部政権は、特区に主要大都市を指定した。そこには福岡市も入っている。おそらく、その中で、より一層、地域は疲弊し、都市を支える一次産業二次産業は枯渇する。

輸出産業が多くを海外に拠点を移しているように、製造業で支えられていた地域ももはや、もたなくなっている。
 
いま、4年近くになる、いわき市浜通りの過去の取材映像を見返し、新たに撮影した、いまの姿についてのコメント取材を見ている。
 
楽観できるものも、陽気さにごまかしきれるものも、じつは、ひとつもない。震災と原発事故によって、一気に加速した高齢化と空洞化…。それは、これからの地域のさきがけの姿だ。
 
それなのに、鹿児島県川内市限界集落化の危機と引き換えに原発受け入れを決めた。選択する道がそれしかないのではない。苦しいからだ。忍んできたからだ。そして、政治が力強い、その他の選択を提示していないからだ。

人は苦しさの中で、楽をしたいからではなく、それから逃れたい。結果、逃れることで違う世界が見られると知れば、一層、まとわりつく苦しさとは向き合おうとしない。

そこには、価値の転換も生れない。都市に暮らす私には、なにも見えてないと彼らはいうかもしれない。だが、地域の活力がなければ、都市に暮らす、私の生活も成り立たない。それだけは、安部政権より深く、切実に理解している。