秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

月のこと

人は、太陽のことは考える。だが、月のことはあまり考えない。

日々の暮らしや折々の歳時の中心に、かつて、私たち日本人及びアジア人は月を基本とした。

旧暦、新暦という言葉でそれはいまも私たちの生活の断面に生き続けている。だが、多くは、太陽のことしか考えない。いわゆる生活の表舞台をそれがつくっているからだ。

近代というものを私たちは、「そのようなもの」と理解し、それまで月を主体とした生活文化習慣から、太陽をそれとする欧米のスタイルに変えていった。

だが、女性の体調の循環をはじめとして、いのちにかかわる不思議な節目には、月がある。潮の満ち引き、季節の転換点…じつは、密かに、そして確かに、私たちの生活の多くが月によってリズムを刻まれ、月によって導かれている。

日常の多くを占める太陽の時間とそれをより人間的に、生物的に支えている月…。

消費社会の到来であたった、バブル期からその後の凋落、そして、空白の20年を過ぎ、いま新たに、「日本を取り戻す」などという言葉が出現している。
 
それは、明かに、失った20年や凋落後のいろいろなものが回復できないこの国のいまをかつての繁栄へ引き戻そうというものだろう。

だが、少子高齢化に示されているように、この国はいま小さくなる国として、どう生きるのかという問いにさらされているのだ。小さくなる中で、どう自国の生きる道を拓くのかを問われているのだ。

太陽に示される欧米的な価値観や生活観、そうしたものの延長に、何を取り戻そうというのだろう。

ただ、豊であればそれでいいという時代はすでに終わっている。ただ、にぎわいされあれば、それで済むという時代はとうに終わっている。太陽の恩恵や庇護を受けられる人々やいのちだけではなく、その恩恵や庇護がえられない人々やいのちのために、何ができるか、行動するかが問われている。

ご存じの人もいるだろうが、月は、かつていまの地球との距離にはなかった。もっといえば、かつて月はひとつではなかった。神秘といってもいい偶然の中で、地球が太陽との距離を保っているように、月も神秘といってもいい偶然の中で、現在の位置に、ひとつしてある。

それが、引力の微妙なバランスを生み、地球及び地球上にある生命体を誕生させ、維持しているのだ。

太陽ばかりを求めて、太陽がもたらす力を人々の象徴とした時代から、もしかしたら、私たちは月のもたらす力を見直すときに来ているのかもしれない。

今夜も、空には、満月へ向かう見事な月が空にあった。9月、満月の歳時を迎えるいま、もう少し、月を眺め、月のことを考えてみよう。