秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

まじめに勉強しよう

建築や現代美術をやっている人以外で、荒川修作の名を知っている人は、50代以上の人が大半だろう。
 
だが、その独自の時間と空間の概念と建築に言語と身体を導入した斬新さは、いまでも哲学や建築学、美術造形の世界はもとより、それだけに終らない、あらゆる芸術の分野に創造の問いを投げ続けている。
 
現代美術では、世界的なアーティストとして評価された「意味のメカニズム」など多くの作品があるが、建築においては、岐阜県養老町にある、「養老天命反転地」。東京三鷹にある「三鷹天命反転住宅」しかない。
 
構想や具体的な計画は進んでいたが、その実現を前に他界した。重要なパートナーだったマドリン・ギンズも今年1月に他界した。
 
しかし、それでも難解ながら、実に示唆的で、刺激的な建築理論を提供した。
 
じつは、Smart City MOVEの基本構想には、荒川修作+ギンズの「養老天命反転地」のコンセプトの一部を流用している。

もちろん、それを全面には押し出してはいない。基本構想として考え方の軸としているだけだ。
 
だが、時代とともに、希薄となっていく日常。私が前回、白蟻にたとえた、蝕まれていく日常にあって、その現実空間(第一次空間)を支えるリソースとして、「養老天命反転地」が具現化した多次元空間(第二次、第三次、第四次空間)の同時空の世界は、いまや現実になっている。
 
ITにおけるSNSやクラウド、あるいはビッグデータとして現実のものとなり、カスタマイズを前提としつつ、そのカスタマイズを共有するものとして、多様なアプリまでもが登場している。
 
現実のコミュニケーションネットワークや情報ネットワークを越え、かつ、現実とは別の次元、空間として、人々の日常を補完あるいは、代替えのために、ひとりの人間がいくつもの時空に存在する時代を私たちは生きているのだ。

近年になって、素数リーマン予想の解読にもっとも近づいたといわれる、非可換幾何学では、この多次元空間の同時空が第11次元まであると理論的には予想され、その空間認識のビジュアルも模擬的につくられている。それが神の暗号を解く、宇宙誕生の鍵だともいわれている。

また同時に、そうした身体から遊離した脳のみのメカニズムによる時空認識に対して、荒川は、身体をそれらから遊離させず、奪還する道として、言葉と身体を建築の中に取り込んだ。
 
荒川がおもしろいのは、ことほどさように、単に美術や建築の枠組みではなく、数学や物理学、宇宙論脳科学、哲学、生理学、生物学といった分野にまでも理解のための知識と知恵を人々に要求するからだ。

それはなぜか。いのちとはなにか。死とはなにか。自己の存在とはなにか。世界とはなにか。宇宙とはないかの問いが基本にあるからだ。

 
それらを真摯の問えば、そこにあるのは、否定の否定。肯定するもののない世界、「無」が現れてくる。すべての余剰さとまやかしを排除し続けることで、純粋にひとつの厳しい解答にたどりつこうとするからだ。

不思議なことに…と思う。先日、同じく久々の母校で、強い影響を受けた、世界的演出家鈴木忠志の講演を40年ぶりに聞き、今日は、同時代の才能のひとり、荒川修作のシンポジウムに参加した。
 
いみじくも、ある古民家をつかって、劇的空間を創造しようと考え始めてからだ。
 
私にはありがたいことだが、鈴木忠志荒川修作といった難解でもあるアーティストを招聘するのには、わけがあるのだろう。
 
いま、母校に限らず、研究者の中心が私たちと同じか、少し下の世代が中心になっている。企画として実現力がある人たちが担っていることがある。
 
だが、同時に、先鋭的で、実験的ながら、多くの共感を呼んだ、あの同時代性への羨望が、研究者の教え子の若い人たちの中に芽生えているのかもしれない。
 
こう度々、母校をのぞいていると、ふと自分の年齢を私も忘れそうになり、私の時代よりははるかに多くなった、行き交う女子学生にふと目がいってしまうw
 
いけない。まじめに勉強しよう。