秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

地域と映画とつながり

よく考えてみれば、地方の取材や仕事を30代の頃から始めていた。多いときは毎月、全国各地を回っていた時期もある。
 
福井県の山間部にある勝山という高齢化の進む町や六ヶ所村、柏崎といった原発関連地域、拉致事件の起きた福井県小浜市、新潟の豪雪地十日町市島根県松江市では小泉八雲の足跡にふれる時間もない取材だった。逆に、花巻市盛岡市では宮沢賢治の取材で賢治を満喫することができた…山口県萩市、岩国市、徳山市山口市下関市山口県とは縁があった。
 
そのほかにも多くの町を訪ね、中には、長野県茅野市のように本業の映像の仕事ではなく、地域コンサルとして長くかかわった場所もある。
 
徳島県は映画の制作が縁で、その後、試写会やシンポジウムで縁をつないでもらい、いまもあれこれ仕事の機会をつくっていただいている。

一昨日、徳島でいつもこちから希望して連れて行っていただいている千代で、F理事長さんと同行してくれた、高齢化の進む町役場につとめるTさんが、ふといった。
 
「地方に映画制作にくる人たちは多いですけど、その中でその地域のためにという思いで映画をつくってくれている人っていうのは、どのくらいいるんでしょう。私には、地方を舞台にすれば、自治体からの制作助成金や協賛金が出るし、撮影ともなれば、食事から宿泊まで、現地の方で負担してもらえる…その都合のよさだけのように思えてしまうこともあるのです…」

Tさんは若い頃、山田洋次監督を審査委員長に、その高齢化の進む町の懐かしい映画館で映画祭を企画し、実施した地元の青年のひとりだった。結局、そこを舞台にした作品はつくられず、隣町で「オデオン座からの手紙」の撮影がされた。

徳島県はこの数年、東映東宝配給の映画の舞台としてよく取り上げられている。「バルトの海」「眉山」のほか、今期公開される限界集落の高齢者のIT事業を題材にした「人生、いろどり」。いま撮影中の池田高校葛野球部監督の孫、葛監督の作品など、本数が多い。自治体からの映画制作の助成金が出やすいことがあるからだ。
 
確かに、映画制作プロダクションの多くが制作費がない。そこで、助成金や撮影協力などフィルムコンベンションのしっかりした自治体に依存する傾向は強い。だが、自分たちがつくりたい映画のためだけで、地域のことをどれだけ知り、地域の人と映画制作後もつながりを持ち続ける会社は少ない。
 
ひとつには、多くが成功していない。したとしても、地域とのつながりを育てていくという視点から映画を考えてはいないなどの理由がある。
 
映画人にしてみれば、それはその地域をつかった作品のひとつでしかない。だが、地域の人たちにしてみれば、それで終わらない何かがあって欲しいと思う。Tさんの言葉はその通りなのだ。
 
だからせめて、よく地域のことを知ってくれている、よくつくってくれた…地域の人たちにこころからそう思ってもらえる映画をつくる心構えは必要なのではないだろうか。

地域に生きる人たちとつんぐほぐれつ、ひとつことを実現するのは容易ではない。一長一短で形になることでもない。その腹を据えて、地域とかかわりを持つ。そこからこそ、そうした映画も、新しい取り組みも少しずつ形になっていくのだ。