秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

違いは衆目がわかっている

計算や打算のない人間は、あやしまれるし、警戒される。計算や打算が勝ちすぎる人間はうとましがられるが、わかりやすい。
 
大いわき祭の初日の夜。いわきの主要関係者とMOVEメンバーとで懇親会をやった。これまで、いろいろな意見の相違や対立はあったにせよ、以前も述べたように、ノーサイド。早晩の違いはあって、共に大いわき祭の実現のために奔走した者同士だ。
 
大いわき祭の開催を思いつき、ずっとオレと同行し続けてくれたKWと二人、いわき市役所の観光課を訪ねたのは、4月下旬。市の職員で最初に顔を合わせたのは、対外イベントの担当のFさんだった。
 
その彼が宴席で笑いながらいった。「秀嶋さん。こういうイベントは初めてだったんですよ。市の各部署にわかってもらおうと、秀嶋さんから資料がくるたびに、コピぺして、あちこちの合意をといったり…オレもがんばりましたよ」
 
当初、オレの願いや思いに強く共感していれていたのは、市の中では、Fさんひとりだった。そして、オレのいう新しい取り組みに興味を抱いてくれていることもわかった。
 
役所の立場上、あからさまにオレを応援するわけにもいかなかっただろうに、見えないところで、いろいろと便宜や工夫をこらしてくれたのは彼だ。
 
「被災地はたくさんあるのに、どうして秀嶋さんは、いわきなのか、なにをしたいのか、しようとしているのか…それがずっとなぞだったんです」。Fさんがそこまでいうと、W課長もうなづきながらいった。
 
「商店街に呼ばれる、どこかの祭りに呼ばれる…そういうのは、わかるんですよ。被災地支援という看板があれば、人も集めやすい、呼ぶ方の商店街、祭りの主催も潤います。しかし、秀嶋さんたちはそういうものじゃない。どうして、ここまでいわきのためにやってくれるのか…それが見えない不安もあって、ちょっと延期しよう。そう考えたというのも正直な話なんです」
 
確かにそうだろう。どこのだれでもない人間が突然市役所を訪ね、そうした自分の利益や計算ではなく、ただ、いわきの情報を東京へ…それだけのために、手間暇のかかる協働事業を提案してきたのだ。
 
役人生活の中でも、いままでいろいろなイベント関わってきた中でも、FさんもW課長も異口同音に、わからなかった、読めなかった…といった。
 
しかし、現実に、最初の提案が実現してみて、この世の中、自分の利益や儲けや計算なしで、地域のためになにかできないかと本気で考える人間がいることがわかった。
 
もしかしたら、オレやオレたちMOVEがこういうことで協力するが、金儲けもしたい…そういう提案だったら、事はもっと迅速に進んだのかもしれない。だが、手間暇、理解のための折衝に時間や思いのやりとりはかかっても、オレの思い願いが伝わらんなければ、ただのイベントで終わってしまうのだ。
 
閉会式で、いままで多くの人に語って来なかった、なぜいわきなのか、なぜMOVEなのか、そして、オレやKWがどういう思いで、いわき市を何度も訪ね、何を感じ、何にふれてきたかを語った。
 
実は、話の最後は、思いがあふれて詰まりそうになっていた。壇上を降りると、昨夜、初めて、心を開いて語り合ったW課長の姿があった。目には涙がにじんでいた。強く握手し、それ以上互いの顔を見合うと、涙が隠せなさそうで、互いに客席に顔をやった。
 
計算や打算ではなく動く人間は、あやしまれる。試練にも見舞われる。しかし、本気の思いが伝われば、きっと人の心も思いも動かすことができる。
 
名声や体裁、その場だけのええかっこしいでは、何ひとつ変えることも、動かすこともできない。動いた人間と動かなかった人間。違いは衆目がわかっている。