秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

いいコンタクトには塩梅というものがある

乗馬を始めたのは、30代中ごろ。ヤマハつま恋で初体験し、それからやみつきになってしまった。
 
人馬一体とよくいうが、まさにその通りで、初めて騎乗した瞬間、それを体感できたことが大きい。相性がよかったのだ。騎乗して、少しすると、素人なのに、指導員が速足(はやあし)をさせてくれた。そのとき、自分が風になったような錯覚が襲った。
 
3日間の滞在期間中、一日に二鞍(乗馬では一度の騎乗の数を鞍と数える)も騎乗し、二日目には、簡単な飛越(地面においたポールを飛び越す訓練)まで教えられてしまった。
 
乗馬には、常足(なみあし)、速足(はやあし)、駈足(かけあし)の歩行があり、これが基本。ただし、駈足ができるまでには、常足、速足による巻乗(まきのり)、半巻乗(はんまきのり)、輪乗(わのり)といった訓練が必要。
 
飛越は、速足でやるが、バランスがとれてないと体が左右に揺れ、鐙(あぶみ)に置いた足が笑い、すこぶるキケン。駈足は、スピードがある分、それ以上にキケン。
 
そのために、方向転換などで、バランスを覚え、同時に、馬への指示の仕方を体で覚える。
 
それがビギナーズラックで、できてしまったものだから、ハマるのは当然。
 
同じ頃、ゴルフも覚えたが、乗馬の魅力が勝ってしまい、毎週末馬に乗っていた。が、独立して事務所を始めてからは、週末をのんびり過ごすこともできず、足が遠のいた。
 
それが、長野県茅野市、蓼科の仕事をやるようになって、仕事で通る道沿いに乗馬クラブができた。すぐにそこの会員になった。
 
初見で、騎乗できると読んだ、トレーナーの先生が、その日に、オレに飛越をやらせた。ところが、バランスがうまくとれていない。自分でもわかっていた。だが、傍目には、十分できているように見える。
 
その頃、オレは、どうしても駈足ができないでいた。その原因が、速足が完全に体得できていないからと見抜いてくれる指導者はひとりもいなかった。
 
先生はいった。「一からやり直しましょう」。そして、徹底的に一から教え直してくれた。腕や足が筋肉痛で悲鳴をあげた。だが、ひと月ほどすると、駈足も、簡単な飛越も難なくこなせるようになっていた。
 
ある日、新馬がいた。「秀嶋さん。今日はこの馬に乗ってみて」。言われるまま、乗って、常足をしているとどうも様子が違う。すぐに、これは競馬馬、しかも、つい最近まで走っていた馬だとわかった。乗馬用に調教された馬に比べて、指示への反応が過敏だったからだ。
 
それを計算して、指示を出し、馬の体質がわかってから、いつものように乗りこなした。それが最終試験だった(笑)。
 
大好きなラグビーもそうだが、乗馬に教えられたことは多い。基本が大事だということもそうだが、馬に合わせる、馬の体質を読むというのは、仕事や対人関係の中でもいえることだと思った。一頭一頭、性格も個性も違う。
 
馬は人を見る。所詮は、動物。甘えさせるだけでは、こちらの指示通りには動いてくれない。だからとって、強く当たってうまくいくわけでもない。互いに生き物同士、自分がされてやなことは、馬もいやなのだ。そして、人が安きに流れるように、馬も安きにながれる。
 
いいコンタクトには、塩梅というものがある。生き物を扱うというのには、それが大事。しかし、それは動物だけにいえることではない。
 
久々、馬事公苑の厩舎で馬にふれて、改めて、それを学ぶ。