秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

人生も人柄も決まっていく

日本最高齢の監督の孫、Kとコレドで飲む。
 
久々、二人で飲もうということになって、とどまることなく語り合う。たまに顔を合わせても、別の人間がいることもあり、じっくり話をする時間があまりなかった。
 
いつも二人で話すとき、尊敬する大先輩監督のことをじっちゃんと呼んでいるので、ここでも恐縮ながら、そう呼ばせてもうらうが、その最後の映画が8月に公開される。
 
Kは、普段は、じっちゃんの後見人、介護役なのだが、この作品では、宣伝会議や告知活動の打ち合わせにも参加しているという。
 
「私さ。いままで現場のことしか見てこなかったでしょ。だから、いま、宣伝とか、配給とかの話し合いに参加して、映画にかかわりながら、自分がなぁも知らなかったって反省しているの…」
その言葉に、おおおっとなるオレ。やっとKもそれに気づいたか…。
「現場だけじゃなくて、完成後も、こんなにたくさんの人がかかわり合ってくれて、苦労してくれてる。そんなこと全然しらないで、映画づくりのこと、知ってるような気になってただけだなって…」
いい! 実にいい! そういう言葉がお前から聞けるとは! オレは父さんじゃないが、父さんはうれしいぞ!
「だから、いま予算とかも勉強したいと思ってるの」
いやぁ、Kからこういう言葉がきける日をオレはずっと待っていたような気がする。
「お前、わかってきたじゃん!」と、思わず、Kの骨太の肩をたたくオレ。
 
K自身もわかっている。じっちゃんの孫として周囲から関心を持たれたり、じっちゃんの威光ゆえに、大事にされる自分のあり方はおかしいと感じて生きてきた。そういう自分ではなく、きちんとひとりの映画人として、自立しなくてはならないと。
 
「そうだよ。予算を見れば、スタッフの苦労がわかる。こんな厳しい中で、これだけのことをしてくれてるのかってね。そうすれば、スタッフを大事にしようという思いが自然にわいてくる。それは、きっとスタッフにも通じる。それがいい仕事につながっていくんだ」
「それもあるし、どこで、どんな無駄やロスがあるかもわかるでしょ?」
「そうだよ。予算を知れば、どういう撮り方をすればいいか、どうすれば、ベストのものを低い予算で実現できるかに知恵が回るようになる。どうしたって、制作費には限界がある。その中で、どれだけいいものをつくれるか、それも才能だから」
「そう思うの。だから、きちんと勉強したいって思ってる…」
 
Kの素直さ、人への気遣いはオレはよく知っている。
 
「私なんかさ、まだいい方だと思う。介護しながら、パートに出て働いている女性もいるじゃない。介護だけでも大変なのに、そういう人を見ると、私なんか、まだまだ恵まれていると思うの」
 
将来、Kがどういう生き方をするかはわからない。生まれたときから映画人の世界で、特段の苦労はなく、監督デビューすることもできた。しかし、じっちゃんの世話やあれこれあり、その後作品はつくっていない。しかし、その間に、学んだことは大きいとオレは思う。
 
他者に対するまなざし、現れた現象を素直に受け止める心…。そうした貴重な宝は、映画づくりにかかわるだけでは得られなかっただろう。きっと、その宝が何かの形で結実するときがくる。
 
人は、立ち現れた現象をどうとらえるかで、その後の人生も、その人の人柄も決まっていく。