遠のく、この国の未来
かつて、小泉、安倍、麻生政権時代、靖国問題や国歌国旗問題といった、天秤にかけるに値しない問題で、中国や韓国と閣僚級会談の実施も難しいというときがあった。
外交は、どちらが正しい、正しくないかを基軸として交渉する類の軽薄なものではない。
実益と国益のバランスを斟酌して、国内の外需依存や経済的文化的交流をどう進展させるかを基本に戦術を組まなくてはいけない。国際社会の動向をにらんだ戦略も必要。かっこのいい領土問題をあおるだけで事足りるほど簡単なことではないのだ。
今回のこの問題、実は、菅新内閣の大きな試金石になる。
対米関係、沖縄の普天間基地問題をどう生きるかは、閣僚人事をみれば一目瞭然だし、エコノミストや経済界からすでに注文が出ているように、財務官僚依存型の閣僚人事をみても、円高を含め、経済戦略をどうするのかの青写真がまだ見えていない。
菅政権は、自民党時代の人気政治、小泉政権に実に似ている。小泉が郵政選挙で民主党を圧倒したときのように、古い政治という仮想敵(民主党では反小沢)をうまく利用し、アメリカ依存と新自由主義の競争原理をこの国に持ち込んだ。
菅は福祉経済立国を目指すと語り、これまでの新自由主義や社会民主主義的な古い談合政治(小沢)と決別し、第三の道をゆくといっている。実は、これ、イギリスの社会学者、アンソニー・キデンズが提唱したもの。その主張にかけていた、雇用の創出を自分の考えとして織り込んでいる。
簡単にいえば、菅がイメージしている国家戦略は、イギリスのブレア政権のそれの焼き直しに過ぎない。
しかし、国民の多くにそんな知識はないし、反小沢というだけで、これまでの自民党とも違う、新しい政治が誕生するような気になる。それも、かつて小泉が登場したときと同じ視点。
国民の痛みや苦しみ、悲しみに手の届く政治が実現するのは、まだ、はるか遠くにある。