秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

4分間のピアニスト

またまた雨。だが、春の雨らしく、多少の冷えはあっても、寒の戻りのそれではない。
 
この雨で、からくも残っていた八重桜も散っていくのだろう。乃木坂界隈の安全帯には、つつじの花が咲き始めている。
 
銀行雑務で雨の中、歩いていると汗ばむ。雨でウォーキングの出来なかった分を取り戻す。
 
いかに運動を休んでいたのかが、運動を欠かさないようになると、如実に腹回りに現われるものだ。クマさんの腹は相変らずだが、数週間前ほど動きつらくない。
 
いま進めている映画の企画で、この間、東京駅で情報交換した東映大阪支社のDさんから御礼のメール。さすが実直な営業。さっそく、広島の担当者に映画の企画をつたえ、某大手企業との接点を探り始めてくれた。
 
海外支援活動を行っている、財団法人の広報の担当者の方からは、テスト稿を楽しみにしているという連絡。協力させていただけますでしょうか、のメールの言葉に、いまはバラバラの点が、どこかで一つになれば、きっと形になる。そう確信する。
 
この作品は、核になっている人々が映画をつくるということで、一つになることが大事。それさえあれば、資金、動員、告知のどれもうまくいく。だからこそ、テスト稿の重さがいやましに、増す。
 
夜、資料読みをして、疲れてきたので、BSをつけると、オレ好みのタイトルの映画が放映されている。『4分間のピアニスト』。あまりなじみなのない、ドイツ映画。
 
ドイツ映画らしく、映像も内容も重い。2007年に公開されたようだが、単館上映しかできないかったのではと思わせる内容。だが、作品性は高い。
 
天才ピアニストの女性が少女期、指導者でおる実の父にレイプされる。以来、凶暴で、荒れ狂うような生活を送り、交際していた男が実行した殺人事件の犯人にされて拘置された。すべてにあがらい生活をしている囚人女性と、彼女の才能を見抜きピアノレッスンをする老齢の女性ピアニストの物語。
 
ナチスドイツ時代の重い十字架を背負い、亡くなった同性愛者の恋人を思いつづける老齢の女性を昨年、他界したモニカ・ブライブトロイが見事に演じている。
 
映画のラスト、厳格な老齢の教師は、ドイツ・オペラ座でのコンクール最終戦へ彼女を出場させるため、脱獄させる。コンクールの演奏時間は、4分。逮捕にかけつけた刑務所所長に、4分だけ待ってと、教師は懇願する。
 
彼女への感謝の言葉を初めて口して、ステージに立った彼女が演奏したのは、シューマン。だが、譜面通り、テクニックをみせつける演奏ではなく、自分なりにより前衛的に先鋭的にアレンジしたそれ。会場も教師も一旦は、凍てつくが、そのすばらしい演奏に、総立ちになる。
 
演奏者は違うかもしれないが、映画とは思えない、実際にすばらしい現代音楽だった。
 
シューマンを越える演奏。教師は、彼女が自分を越えたことを直感した。演奏を終えた彼女は、ステージの中央に出ると、実父の裏切り以来、誰にもしたことのない、正式のおじきを彼女に向かってする。
 
対立の中で、齟齬の狭間で、人はつながり合える。わずか4分間の演奏でも、それを達成できる。
 
人はつながり合える。それを教えた2時間の、きっといまこの国の人々は重くて、見ないだろう、一級の映画。