ムーン・リバー
中学、高校生の頃、若者向けのファッション情報誌は、いまとは比べものにならないほど、少なかった。
そうした中で、オレたちにファッションや新しい生活情報を与えてくれたのは、映画だった。
いまでは、超ハイセンスともてはやされているが、一時期はこうしたオーセンティックで、トラッドなファッションは、ださいとさえいわれた時代がある。
オレが英文科へ進んだのは、中学生、高校生時代に観た、日曜洋画劇場のハリウッド映画の影響が強い。
「ティファーニーで朝食を」の原作が、カポーティと知り、大ベストセラーの「冷血」を読んだのもそう。大学に入り、なけなしの生活費の中から原書を購入したのを覚えている。
Breakfast at Tiffany'sは、実は、サスペンス作品。だが、それがロマンス溢れる映画に仕上がっているのは、へップバーンの自由さに溢れながら、品格を失わない美しい演技と音楽。へップバーンは、亡くなるまで、自由さと品格を決して失わなかった。
スーツにボタン・ダウンのシャツ、レジメンタルの細タイ、それにステンカラーコート。ジョージ・ペパードのファッションそのままに、オレが生活していた時代があることは、いま、ほとんどの人間が知らない。