秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

ムーン・リバー

中学、高校生の頃、若者向けのファッション情報誌は、いまとは比べものにならないほど、少なかった。
 
VAN・KENTの創立者石津謙介がIVYファッションを紹介するまで、高級ブランドに手の届かない、若い世代がファッションに凝るといったことは、ほとんどなかったのだ。
 
そうした中で、オレたちにファッションや新しい生活情報を与えてくれたのは、映画だった。
 
その中でも、最初にファッション、生活雑貨、車に関心を持たせてくれたのは、キム・ノバックやヘップバーンが主演する映画やジャンポール・ベルモントアラン・ドロン主演のフランス映画だ。
 
いまでは、超ハイセンスともてはやされているが、一時期はこうしたオーセンティックで、トラッドなファッションは、ださいとさえいわれた時代がある。
 
オレが英文科へ進んだのは、中学生、高校生時代に観た、日曜洋画劇場のハリウッド映画の影響が強い。
 
「ティファーニーで朝食を」の原作が、カポーティと知り、大ベストセラーの「冷血」を読んだのもそう。大学に入り、なけなしの生活費の中から原書を購入したのを覚えている。
 
Breakfast at Tiffany'sは、実は、サスペンス作品。だが、それがロマンス溢れる映画に仕上がっているのは、へップバーンの自由さに溢れながら、品格を失わない美しい演技と音楽。へップバーンは、亡くなるまで、自由さと品格を決して失わなかった。
 
出演を断わった映画は、一本だけ。「アンネの日記」だ。自身、ゲシュタポに追われ、アンネと同じ少女時代を過ごしていた。晩年の難民支援活動はそれと無縁ではない。
 
スーツにボタン・ダウンのシャツ、レジメンタルの細タイ、それにステンカラーコート。ジョージ・ペパードのファッションそのままに、オレが生活していた時代があることは、いま、ほとんどの人間が知らない。