秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

天体観測

なんでも、RedのオーナーYouが、オトナ買いして、天体望遠鏡を手にいれ、天体観測を楽しんでいるらしい。

イガやKの家族などRed常連の幾人かには、お披露目しているらしいが、今日の夜、店の営業を兼ねて天体観測会をやるとの連絡。今日は、あいにく、雲が多いから、結局は飲み会で落ち着きそうだが。

小学生くらいのころ、焼鳥Yoshiのオヤジさんに天体望遠鏡が欲しいとゴネたら、どこかに捨ててあったか、使わなくなったものをもらってきたのか、とにかく、お古を手に入れてくれたらしい。やさしいオヤジだ。

お古とはいえ、子ども心にさそがし嬉しかったのだろう。しばし天体観測に夢中になっていたという。以来、天体観測といえば、元祖オタクみたいなものだが、それにハマってしまったらしいのだ。

実は、オレも中学生のとき、学校の行事で児童劇映画の上映会があって、そこで見た、イケヤセキ彗星を発見した、青年のドラマを観て、オヤジに天体望遠鏡が欲しいとゴネた。ちなみに、イケヤさんとセキさん二人が同時に発見したので、そう呼ばれている。どちらが主人公の貧しい青年だったかは忘れたが。

実話に基づく、そのドラマの青年に感心したのは、レンズから自分で磨いてつくっていたことだ。イケヤさんだったか、セキさんだったか、その青年は、高額な天体望遠鏡を買うお金がなくて、でも、どうしても本格的に天体観測がやりたくて、苦心して、自前で反射望遠鏡をつくってしまった。

その自前の天体望遠鏡で、コツコツ天体の変化を観測し、ある日、これまでのデータにない星の動きを発見する。天文学や光学を大学で学んだわけでもない、定時制高校出身の二十歳の青年がそれをやってのけた。

そんな話にオレが感動しないわけがない。

しばらくは、デパートに行くたびに、光学機器売り場をのぞき、でかい反射望遠鏡をみては、あれがあれば、宇宙の彼方の星々まで、観察できるのにと、垂涎だった。

たぶん、自分が学校で見た児童劇の感動をオヤジに何度も話したのだと思う。そしたら、ある日、オヤジが、少し早いクリスマスプレゼントだと、天体望遠鏡を買ってきてくれた。

うちのオヤジは工業系の勉強を戦時中していて、志願して陸軍に入隊すると所沢航空隊で、隼の整備士をしていたから、工学的なものが好きだった。そのせいか、勉強や知識を得るために必要なものは、オレがすぐに飽きない熱意があれば、貧しい警察官の給料の中から、なんとかしようとしてくれた。

小学校のときに欲しいとゴネた、顕微鏡はさすがに高額すぎて買ってもらえなかったが、そうしたことに興味を持つ息子に笑顔がこぼれていたのを覚えている。

小学校の高学年くらいから、本の虫になり、中学になると図書室の本をほとんど読んでしまった。高校生になると、古典文学、純文学ばかりでなく、エロ際どい大衆文学まで読むようになった。それを知ってか、知らずか、高校生になってすぐ、オヤジが給料から天引き扱いになる図書購入のカードをくれた。

当時は、クレジットカードなどないから、ま、いわば、公務員という信用を担保にしたツケ買いのようなものだ。それをオレにくれたのだから、ただで済むわけがない。一応、一度に高額にならないように気はつかったが、五木寛之野坂昭如井上ひさし大江健三郎高橋和巳柴田翔などから、アイビーの本まで、読みたい本があると買ってしまう。

給与明細が来る度に、おふくろから注意された。言うことを聞かないオレへの不満をオヤジにぶつけるが、オヤジは、「読みたい本くらい読ませてやれ」とオレを庇ってくれた。本を読むことは勉強になる。
オヤジの考えは一貫していた。

本を投げたり、跨いただりしたら、ひどく怒られた。書いた人に失礼だ。というのがその理由だった。

子どもの頃、子どもがなにかに夢中になるのは、まずは好奇心や興味があってのことだが、それが、オレのように、その後の人生の軌跡の始まりになることもある。オヤジは、それを知っていたのと思う。

しかし、子どもが何かに夢中になるのは、また、子ども自身、何に夢中にならなくては埋められない思いがあるからだ。

それに気づいていたかどうかは別にして、しかし、親ができるささやなか手掛かりをくれたいたことは間違いないのだ。そして、オレが児童劇映画に感動したいくつかの作品のように、それからの子どもの心に深い感動を残すものがあったらればこそだと思う。

オトナ買いの天体望遠鏡をのぞきながら、そんな親たちのこと、子どもだった自分の心と向き合うのも悪くない。