秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

この国の闇

気になるニュースが深夜に飛び込んできた。押尾学の逮捕だ。

3年前に違法ドラッグについての教育映画を制作し、いまも薬物関連の企画を東映に上げている、その最中。

薬物依存の問題は、社会学者の宮台真司精神科医斎藤環と、シンポジウムやWEBサイトを運営していた10年ほど前から、それぞれが、それぞれの立場で取り組んできたこと。

その基本は、有害情報規制と同様、懲罰主義の法令強化、厳罰化では、解決できる問題ではないということだ。

薬物を売買している裏社会に対して、法制度による懲罰は重要だし、効果もあるが、薬物依存者にとって必要なのは、懲罰とは別に、薬物へ依存してしまう心のケアを徹底しなければ、依存を断ち切ることは、ほぼ不可能といっていい。というか、そもそも、依存を断ち切るなどということは、並大抵のことではないのだ。

一度、覚せい剤やMDMAのような耐性のある薬物にはまると、自分の意志ではどうしようもなく、脳が薬物を要求するようになる。多くの薬物依存者が、薬物購入のため借金をつくる。あるいは、正常に仕事ができず、収入がえられないことで、親族や友人、知人に迷惑をかけ、自責の思いにかられる。悪い、迷惑をかけていると、一瞬思っても、それに応えることができなくなるのが、薬物依存の現実なのだ。

従って、懲罰しても、薬物依存そのものを断ち切ることはできない。そもそも、懲罰は、司直の形式に過ぎず、誓約書や宣誓書をいくら書かせ、もうしません、反省していますと言葉でいわせたところで、病理的視点とケアが欠落しているから、絵空言で終わってしまう。

芸能人の例を見てもわかるように、再犯率は異常に高い。それも、反省していますの文章を書かせて終わるものでないことを示している。

だが、大きな問題は、このように依存者をつくり、金づるにして、膨大な利益を上げている輩がいることだ。薬を買うために売春を強要し、殺人や暴行、レイプなどの犯罪の肩代わりをさせ、薬物を隷従の道具として、人の尊厳を弄ぶ奴らがいることだ。

薬物依存者の大半が、自分だけは依存者にはならないと当初、自信を持っている。そして、自分だけは、体を売る地獄のような依存者生活にはいかないと思い込んでいる。

だが、ある日、気づいてみれば、他人に薬を売りつけなければ、自分の薬が買えないという状況の陥り、ネズミ講のような薬物使用と売買の網にからめとられ、売りつけた奴が金を払えなくなれば、自分がその負担を被り、被りきれないと自分の体を売る、犯罪をおかすということをやるようになってしまうのだ。

薬物依存で一番問題なのは、これ。薬物の使用の結果、起きてしまう地獄のネットだ。

今回の押尾学の逮捕は、その裏社会の片鱗が見えている分、ただの芸能人のお遊びで終わらない。六本木ヒルズのマンションで、女性が一人死んでいるからだ。押尾が直接関与しているのか、マンションの所有者の芸能人が関与しているのかは、まだ、わからないが、女性が一人、裸で変死していたというのを聞けば、そこで、何が行われていたか、大方の察しはつく。

報道各社は、芸能人がらみで、かつ、死者が出ていることもあり、いつもの早計な憶測は、さすがに控えているが、当初、どこかから、圧力が掛かっていたと思える節がある。女性の死因を心不全として、事件性はないという情報が一部で流れていたからだ。

この国は薬物にせよ、臓器移植にせよ、幼児ポルノや買春にせよ、闇社会、裏社会がある。それを暴こうとすると、奇妙なことに、圧力がかかる。マスコミも報道も、トーンダウンし、事件の実態を完全に暴こうとしなくなる。表層的な報道でおわり、その裏にある真実を明るみに出すことはしない。

マスコミが怖れ、警察が自己規制している、その根本を暴かない限り、根絶しない限り、薬物に翻弄され、隷従的な支配や暴力から自由になれない人々は増大し続ける。

明日以後、この事件がどういう展開を見せるか。今回の一人の女性の死を重いと感じられるか、そうではないか。そこにすべてが掛かっている。