秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

優秀な社会民主主義国家の出現

日本は、優秀な社会主義国家だ。

そういったのは、オレが15年ほど前、北京の学術機関と蓼科との合弁事業をプロデュースしているときに出会った、中国側の実務担当者たちだった。

中国で仕事をした人間なら、誰でも経験することだが、中国人のビジネス感覚、商売感覚は、日本人の比ではない。中国は、社会主義国家を標榜しているが、市民革命によって社会主義を実現したのは、長い闘争の歴史はあるにせよ、たかだが65年ほど前。

中国4000年の歴史は、世界的交易による商業主義の歴史だ。日本とはその厚みが違う。民衆の中にしみこんでいるのは、いわば、徹底した資本主義。毛沢東主義が4人組問題で破綻して以後、中国は、巧妙に社会主義と資本主義の整合を計ってきた。開放政策は、民衆の中に沸き起こる自由経済による富の獲得要求に対して、中国共産党がとった、社会主義国家における自由市場経済という、新しいフォルムへの転換だった。

その大きな教科書になっていたのは、日本の高度成長、経済発展を支えた、社会主義的経済体制だったのだ。オレが、中国人の同世代連中と、政治や国家、日本と中国との歴史的関係、日本の戦争責任、経済発展と共に負の遺産として生まれた公害問題や喪失した伝統的日本精神について語る度に、それでも、彼らは、同じアジア人として、戦後日本の復興とその後の脅威の経済発展に賛辞を惜しまなかった。

オレが、日本を手本とした場合、中国の10年後、過度の開発によって、公害都市となり、貧富の格差がより増大し、人々の絆が失われ、伝統的歴史や街並みが北京から消えることへの危惧を語っても、彼らは、中国全体の豊かさのためにそうした犠牲は一部やむえないと口々に語った。

そして、人間的にも魅力があり、優秀な実務者の黄さんは、日本は優秀な社会主義国家だが、中国が本来の資本主義精神に立ち返ったとき、きっと、いまの日本と同等レベル、それ以上の国家に成長すると胸を張った。なぜなら、中国人は統制経済の中で、資本主義を実現できる民族だからというものだった。

そして、オレの指摘も、黄さんのその言葉も、現実になった。

中国12億人の民を一つにまとめることは、容易ではない。そこには、強権が必要だった。中国統一の歴史がそれを物語っている。それゆに、社会主義というフレームが中国人には必要だったともいえるのだ。国が経済をコントロールし、統制経済の中で、民族的、文化的、歴史的に中国人の中に内在する資本主義精神、拝金主義的一面を呼び起こし、経済発展を行う。この構図は、歴史的に振り返れば、いわば、当然の帰結とさえいえる。

アメリカ政府がいま、取り組もうとしている新ニューディール政策は、いわば、その逆バージョンをやろうとしているのだ。徹底した資本主義国家、民族的、文化的、歴史的にそうであった国家に、社会主義統制経済のレールを敷き、無作為、無責任な企業経営の悪因を取り去り、自由を制限しつつ、国家がその先頭に立って、経済の建て直しをしようとしている。

市場経済の原理に任せて、徳をするのは、軍事、エネルギー、IT、金融などに関る一部の資本家やその資本によって権益を受けているものたちだけに過ぎない。富と権力を持つ者が、何でもあり、何でもやりたい放題のシステムだからだ。そうした輩には、市民、国民の生活を守ると発想はない。それが、サプライムローン問題で白日にさらけだされたいま、アメリカ経済の悪しき根幹を根絶するには、国家統制によるシステム変更に頼るしかない。

オバマが劣勢を跳ね返して、大企業が支援するクリントンを敗れたのは、国民が、ひも付きで選挙資金を得ているクリントンでは、こうしたリーダーシップが発揮できないことがわかっていたからだ。それを証明するように、GMの破産申請後、アメリカ市場の株価は上昇している。

しかし、アメリカ国民が求め、オバマが実行しようとしている、統制経済の象徴、新ニューディール政策は、かつて日本が高度成長期に公共事業を中心に展開していた、社会主義的談合と同じ質のものだ。

日本人には、民族的、文化的、歴史的に競争原理にまかせた、自由主義経済体制はそぐわない。それを強引に取り込んだところに、現在の破綻が生まれている。日本経済を底辺で支えてきた中小零細企業の破綻もそこから生まれている。異業種からの参入規制を解除したことで、タクシー、介護、物流などに大きな弊害が生まれている。

日本のおバカな与党がのんきに選挙対策の経済運営をやっている間に、海外では、アメリカ、中国、インド、EU、それぞれの国が自国独自の経済の建て直しに既に着手している。そこには共通して、かつて戦後日本を支えて来た、自由主義経済の中での社会主義的、つまり、社会民主主義的経済へのパラダイムシフトが始まっている。