秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

許されない蛮行

安倍元首相へのテロ事件。この国のマスコミ、ジャーナリズムがいかに、国民の深層にある不満や不信と負のエネルギーを理解していないかがよくわかる反応だった。

「こんなことが日本で起きるとは想像もしてなかった。ショックだ」。そして、口を揃えて、「暴力による民主主義への暴挙」「許されざる蛮行」という。

親が子どもを虐待死させる。殺すのはだれでもよかったという動機不明の無差別殺傷事件。家族でもない男女がエセ家族をつくり、エセ家族の中での殺人事件を起こす。中学や高校生の家出少女や自殺願望の女性を監禁して殺害する…。そんな事件が起きるこの国で、テロが起きないと確信している脳天気さは、一重に、この国の底辺にある負のエネルギーの存在が見えていなからからだ。

 

古くは酒鬼薔薇事件や池田小事件、秋葉原無差別殺傷事件、渋谷での無差別殺傷事件があり、つい最近も通り魔殺人事件が起きている。対象が政治家や著名人ではなかっただけで、彼らの根底にはテロと同じ情動が潜んでいる。

民主主義という美名の中で、多数派であることがよしとされる社会は、同時に、そうではない人間、組に入れてもらえない人間を増産する。アメリカでの銃乱射事件から学ばない。はぶかれたと感じた瞬間、彼らには自己嫌悪感と自己否定、それがさらに肥大すれば憎悪しかなくなる。それが暴力への導火線となるのだ。マクロで言えば、世界基準とされてきた欧米民主主義と対立するロシア、中東の動向を見てもわかることだ。

 

抑圧された感情は暴力という形になって現前化する。この当たり前の現実が理解できていない。


しかし、それに加えて、判で捺したような、「許されざる蛮行」だ。そもそも国家主義や政権中心主義そのものが蛮行ではないかという自問と反省がない。

安倍政権以後、政党内、中央官僚の人事が一掃され、政権に都合のいい人事にすべて書き換えられて来た。政治資金規正法上の問題、山口での暴力団との癒着による事件、関係者によるレイプ事件もみ消し、森友や加計、桜を見る会など、安倍元首相の政治家生命が危うくなる事案が起き、その事案のいくつかの関係者から不明の死や事故死、自死を生んできた事実をどう考えるのだろう。

 

しかも、刑事訴訟や民事訴訟にまで発展した事案は、すべては、公明党とつながりの深い検察や安倍元首相とつながりの深い警察官僚の力で不起訴処分や捜査対象外とされている。事件の真相をマスコミが暴くこともなく、左遷された官僚の声、不明死の遺族、事故死や自死した遺族は、改ざんを苦に自死した赤木さんの奥さん以外、すべて口を閉ざしている。

 

安倍元首相がこの国の三権分立を壊し、行政官僚の自由な発言と活動を奪い、それらによって、利権誘導や利益背反を日常化した現実に、マスコミもジャーナリズムも、政治家も沈黙してきた。

それが戦後日本社会の歴史において、許されない蛮行でなくて、何だというのか。

テロ行為が正当だといってるのではない。だが、今回の蛮行を批判するなら、これまでマスコミやジャーナリズムが自公政権にしっぽをふり、政治家自身が保身に走り、国民の生活と負のエネルギーの実態に目を向けた政策をなにひとつ実現していないために起きている国民生活の逼迫の責任を振りかえるべきだ。

省かれた人間が自己否定の先に、政治的でなく、社会への憎悪として、テロと見まがう犯罪を起こすことは少しの想像力があればわかることだ。

その想像力、民衆の中に潜む負のエネルギーを生み出している自分たちへの自問と自戒が今回の事件で生まれなければ、同じ犯罪はまた起きる。そして、さらに強圧的、威圧的な司法の強化でこれに対応しようとして、単発的だった犯罪が組織化される危険を招く。

許されない蛮行を生んでいるのは、許されない蛮行とすることで、この国を覆いつつある負のエネルギーを生んでいる責任が自分たちにはないと、きれい事の正義をかざす、あなたたちだ。