秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

Subway Therapy

ぼくらは世界をつかまえたいと思うけれど、じつは、世界をつかまえることも、世界を知ることもできはしない。

つかまえていると思っている世界、知っていると思っている世界。せいぜいぼくらにできるのは、のようなものでしかないんだ。

海外の報道を観ていると、PBSでも、BBCでも、フランス、ドイツ、イタリア、ロシアでも、中東情勢、テロ、シリア難民、モスルで急増している難民、飢え、南スーダンの本格的な武力紛争の危機など、自国の政治経済、社会問題と同等か、それ以上に伝えている。

それらが世界をつかまえているとはいわないけれど、少なくとも自国の問題を自国だけで語るのではなく、世界情勢の中で伝えようとしているのがわかる。

PBSのナイトラインで、トランプ次期大統領の登場によって、二分された国民の亀裂、相互にある怒りを「Subway Therapy」によって冷静な議論に変えようとする取り組みを紹介していた。

だが、国民感情の修復の問題のように伝えながら、そこにあるのは、トランプ氏の登場が国際社会にどう影響するか、国内の政策にどう関係するのか。テロ、移民、難民、貧困、資源、エネルギー、安全保障といった問題に自分自身がどうかかわるのかといった、自分と他者、世界のつながりを見よう、ひも解こうとする姿だ。

地下鉄の通路を歩く人たちが、それぞれの考えや意見、批判をメモに残していく。
言葉にする前に、セラピストと議論や対話をし、多くの残された意見のメモを読む。そこで改めて思いを整理し、人々に伝えたい、書き残してたいことを文字にしてメモに残す。

勢いや感情、無配慮に言葉をぶつけるのではなく、言葉にする前に、立ち止まる。短いメッセージでも、いろいろセラピストから問いかけられてから文字にする。それによって、感情的にではなく、自分の意見、考えだけの世界だけでなく、だれかを意識した相対的なメッセージを残していく。

それを観て、ぼくは思った。

ぼくらには、なんと貧弱な情報しか提供されていないのだろう。それによって、脆弱な議論しかしていないのだろう。ぼくらは、自分たちの狭い世界のことだけにどれほど夢中になり、どれほど世界を知ろう、わかろうともしていないのだろう。

安倍首相がトランプ氏と企業経営者である家族だけで、官僚や政治家抜きで密談を持つことで、密約の疑惑を指摘する声もない。

ロシアが北方二島に地対艦ミサイルの基地を起き、北海道東部を射程距離にいれたという報道よりも、成立しないTPPや覚醒剤報道を延々と流す。

国際社会からみれば、トランプ氏やプーチン大統領に翻弄されて右往左往しているとしか映らない政治、外交の動揺を国際社会からどう見えるかの情報も流そうとはしない。

ぼくらは与えられた情報をただ、その言葉のまま受け取り、疑惑や疑念を持っても、それを非難ではなく、議論の言葉として発することもできていない。

いじめの増大が示しているように、ぼくらは言葉を深める場を失ってしまったから、傷つけ合うだけで、それができないのかもしれない。

Subway Therapy」が必要なのは、ぼくらなのかもしれない。

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