秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

みんなが歯を食いしばっている

昨日、渋谷の舎弟のヘアサロンに立ち寄って、その足で、いつものように渋谷から乃木坂まで歩いて戻った。
 
途中、青山劇場の前を通る。舗道を歩いていると、女性ばかりの人並みがどっと正面から歩いてくる。
 
いま、ブロードウェイミュージカル「ON THE TOWN」の公演をやっているからだ。
 
その人並みに逆らいながら歩いていて、ふと思った。
 
これだけの数の女性たちが、ジャーニーズでも演技力のある、そろそろ中年といわれる俳優たちの芝居に夢中になる関心が、社会や政治、沖縄や福島のいま、シリアやパレスチナの紛争、あるいはカンボジアの地雷やアフリカのエボラ出血熱に関心を持ってくれたら、どんなに世の中は変わるだろう…

もちろん、ジャニーズのミュージカルを観ていても、そうしたことに関心を寄せる女性たちがいないわけではない。
 
だが、おそらく、先日、私が回った福島県中通りの生産者や生活者にとって、青山の劇場で上演されている芝居のことなど、まったく関心がないか、まったく知らないに違いない。そうしたことに時間を費やす暇もなければ、情報も環境もなく、そして、ゆとりもない。

そして、私は思った。かつて映画でも、劇場でも、それがラブロマンスや冒険を描いていようとも、あるいは華やかなスターや俳優が登場しようとも、その根底に、人間の現実と相克、社会の矛盾、世界の課題を描こうとしていた。
 
だが、いつか、表現者や制作者は、そうした出力する側の責任よりも、商業的にどれだけの収益となるかに重心を置いた。
 
それも、私は決して否定はしない。そうした商業的作品の中にも、社会の問題や世界的課題を予見させる要素があるものも少なくはないからだ。

しかし、もしそれが希薄になっている。あるいは、失せているとしたら、それは、観客である彼女たちの責任ではなく、また、商業主義に走る制作者たちではなく、そうした要素を組み込みながらも、十分、彼女たちや制作者の関心や興味、意欲をそそる作品を私たちがつくっていないからだ。敗北しているからなのだ。

どんなにいい作品だったとしても、それが実益にも結びつかなければ、結果になっていかない。成果評価という点で、私たちの世界はじつは厳しい。

もちろん、そのためには、資金もいれば、いい俳優、いい脚本、いい演出を結集する力もいる。だが、それだけあれば、うまくいく世界でもない。商業的な作品であれ、そうではない作品であれ、つくり手の熱意や思いも必要になる。
 
苦境の中で、試練の中で、それでも成果という厳しいハードルから逃げず、闘う。敗北することもあるだろう。手配や手当が十分につくせない非力さに忸怩たる思いにふけることもあるだろう。
 
だが、それでも、あえて、厳しいハードルから逃げず、踏ん張り続ける。それが歯を食いしばるということなのだと私は思う。

中通りの生産者の姿を見ていて、私は、どこか、私たちの仕事に似ていると思った。
 
みんなが歯を食いしばっている。でも、それだけではいけない。みんなが、それをやめて、笑えるときを、心から笑えるしあわせをつくらなくてはいけない。
 
写真は、郡山市の北、本宮市にある御稲(みいね)プライマル株の後藤専務。種から成育までの一貫生産をやり、すべてデータ化して管理栽培をやっている。ここでは、ひとつの種がどのような経過でいま食材としてあるかがすべてわかる。牛の全頭管理と同じシステムを農業で実現した。

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