秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

予感

○ 道
    乗用車が走ってくる。

○ 車 中 
    男と女が乗っている。
    女、目線を左にやる。
    広々としてなだらかな草原が見える。
女 「あれ・・。こんなとこ、あったんだ・・・」
    男、女の視線の方を見て
男 「ほんとだ・・。いい感じじゃん・・」
女 「ねえ、ちょっと降りようよ」
男 「うん・・」
    男、ブレーキを踏む。

○ 道
    停車する車。
    二人、車を降りる。
女 「ああ、気持ちいい・・」
男 「寒くねえ?」
女 「うん、ちょっと・・。でも、大丈夫。日差し、結構、温かい」
    二人、なだらな坂を降りる。

○草原の下り
    男、少し歩いて座る。
男 「小春日和って言うんだろ、こういうの?」
女 「うん・・」
    女、男の隣に座る。
男 「あれ?」
女 「なに?」
男 「あの雲、完璧、うさぎじゃん・・」
女 「ほんとだ・・。かわいい」
男 「あ、でも、耳、とれそう・・」
女 「なんか、だんだん、クマみたいになってく・・」
     二人、空をみつめたまま、薄く笑う。
男 「昔さ・・」
女 「うん・・」
男 「よくひとりでずっと雲、見てた・・」
女 「へえ・・」
男 「ずっーと見てるといろんな形に見えてくるんだ」
女 「うん」
男 「なんでだろう・・」
女 「?・・・」
男 「なんで、俺、ずっと雲なんて見てたんだろう・・」
    短い間。
    男と女、二人出会う前のひとりの時間がよみがえる。
男 「ねえ・・」
女 「なに?」
男 「お弁当、ここで食べない?」
女 「お弁当?」
男 「うん、おにぎりつくって来た」
女 「えっ、ホントに!」
男 「ちょっと、待ってね」
    男、車の方へ走る。
    その姿をみている女。

○ 車 中
    男、後部座席に置いたバックをとり、戻る。

○ 草原の下り
    走って、女のところに戻ってくる男。
男 「まだ、ここから1時間くらいあるからさ。途中、山道で店なんてなさそうだし・・」
女 「おかしい・・」
男 「えっ?」
女 「だって、逆じゃない」
男 「そうか」
女 「なんか、立場ない・・」
男 「どうして。俺、こういうの得意じゃん」
女 「そうだけど・・」
男 「これ、シャケ。こっち、オカカ。そいで、これがタラコだったかな・・」
女 「(笑う)」
男 「ヘン?」
女 「ううん・・」
男 「食おうよ」
女 「うん・・」
    二人、食べる。
女 「あっ・・」
男 「なに?」
女 「これ、オカカ・・」
男 「そう? きらい? ・・だったけ?」
女 「(首を振り)ううん・・。好き・・」
男 「(笑って)よかった・・」
女 「(ポツリと真顔で)大好き・・」
男 「えっ?」
女 「(笑って)気持ちいいね・・」
男 「ああ・・。気持ちいい・・」
    二人、食べ続ける・・。
    クラクションが鳴る。

○道
    二人が停めた車が道をふさいでいた。
    トラックの窓から中年の男、顔を出し、叫ぶ。
中年の男 「おーい、ダメだよ。こんなとこ、車停めちまってはよ」

○草原の下り
    男、慌てて立ち上がり
男 「すみません!(女に)ちょっと、車、動かしてくる」
女 「いいよ・・」
男 「えっ?」
女 「いいのよ」
男 「だって・・」
女 「あれ、うちのお父さん・・」
男 「えっ!?」
    女、笑顔で食べ続けている・・。