秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

犬の遠吠え

高齢化の波と格差の波が同時に進んでいる…ということに、ぼくらはあまりにも無頓着だ。

江戸末期、西欧諸国が脅威とすら考えた、この国。西欧化しかり、軍事力の近代化しかり、敗戦後の高度成長しかり。

システム変更といえば聞こえはいいが、要は、外圧からの刺激によって制度変更しただけのことなのだが、乗り換え方が極端で、素早い。

その理由は、過去の清算をまったくしないこと。清算しないから、切り替えが早い。だが、過去を清算しないままの形式上の乗り換えだから、本質的な変革がない。だから、安心して制度変更がやれ、その後、与えられた道を迷いないばく進が可能だということがある。

だが、成熟社会を迎えると、その方程式が通用しない。ゆるかに成熟社会を迎えた欧米に比べ、それがあまりにも早すぎたがゆえに、見本となる前例のない矛盾に突き当っているのだが、それに対して自覚がない。

高齢化と人口減少。さらに格差。これらへの処方箋をまったく持っていない。

だから、あの夢をもう一度みたいな、すでに終わった成長戦略をバカのように政権が唱え、これにまた先見性のない日銀や財界が後押しをする。労働人口の減少を高齢者の健康寿命の増進や女性の活躍といいながら、やっている施策は陳腐なものばかりだ。少子化対策も同じ。

陳腐の証明は、それがいくらやっても社会に定着していないことであからさまに示されている。それでもお題目だけは仰々しい。国家戦略特区だの、女性活躍社会だの…。しかもそれすら、不公平性の極み。一部の関係者への優遇策だっただけで、国内経済に寄与などひとつもしてない。

現状のままでいくと、20年後くらいには中高年の単身世帯が増大し、3人に1人は結婚しない社会がくる。世界でも例のない、高齢化と少子化、さらにはそれに追い打ちをかける格差が蔓延した社会がやってくる。対策としての社会保障は棚上げにされたまま、その日がやってくる。

旧来からのような行政区域や住民、一企業の努力だけでは、家庭、地域社会の問題を解決できないときに、これまでの血縁、地縁、金縁に頼った対策しか考えられない連中が政治、経済を仕切っていれば、当然ながら、次のパラダイムへ行けるはずもないのだ。

国内対策も万全にできていない政権が、外交の檜舞台にあがりたいと子ども染みて成果があがっているように、みっともない饒舌さでまくしたてている。

政財界に不正が蔓延し、国民生活がひっ迫する。そのくせ利権と結びつく軍事費や機密費が増大する…昭和11年なら、クーデーターが起きている。

だが、問題なのは、若い世代を中心に、将来不安や希望格差を持ちながら、こうした政治や経済のしくみを根底から変えていく発言や行動が生まれていないことだ。

個人の努力があれば、自立する意志があれば、世界はいかようにもいい方向に進む。それで片がつくような問題ではない。また、その言葉にあるのは、そうできない個人は切り捨てる社会を容認するという、己が安泰のうちだけいえる、犬の遠吠えに過ぎない。

それがわかるときが、もうすぐそこにきている。