秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

誇らしいことだ

ぼくらは外見や社会的な地位とか職業、学歴や収入といったもので人を値踏する。本人ばかりでなく、親や家族のそれを見て、当人の価値を決める。

あるいは、過去の経歴とか、実績とか、周囲の評価といったもので人を判断する。

場合によって、その人が努力して結果を出しているのか、社会に適応しているのか、つまり従順であるかないか、周囲から好かれているのか、友だちや後輩、先輩からかわいがられているかで人の良し悪しを決める。

そして、そうした規準や評価で人を値踏みしていることを疑わない。

だが、それは同時に、自分たちにとって、安心な人、安全だと思える人、だれかが決めたわけでもないけれど、自分たちが正しいと思える世界の枠組みにいられる人、枠組みを壊さない、乱さない人だけを受け入れるということだ。

自分たちに見えているもの、世界だけがすべてであって、規準はそこにしかない。そこでは、規準にない、それ以外の人は見えてはいない。黙殺しているか、排除しているか、差別し、封印してるかだ。

仮に、見えている言動や態度があったとしても、そこに切実さや切迫感はなく、見えてるふりをするだけで、わかろうとも、知ろうとも、ふれようともしない。

ぼくは、この間の衆議院議員選挙の様子や結果、その後の政権の中枢にいる人たちの言葉、そして、今回のよくわからないトランプ大統領のアジア歴訪での政権やマスコミの対応を見ていて、そんなことを思っていた。

いま、アメリカの報道や政財界では、トランプ大統領のアジア歴訪の話題などごくわずかしか報道もしていなければ、関心事でもない。いや、アメリカどころか、欧州諸国でも同じだ。

すでに大統領選挙時の選挙対策の重要人物が2人もロシアとのつながりで特別検察官によって訴追された。現商務長官のロシア投資による利益相反疑惑が表に出て、大統領の足もとまで訴追の火が迫っている。

就任1年の国民の不支持は59%、すでに6割近く、支持は4割に満たない。就任時からー22ポイントは歴代ワーストだ。大統領の信任を問う中間選挙では大敗北が決定的な情勢。

つい先日、国務省の環境調査機関は、温暖化が異常気象の要因だと発表した。

トランプ大統領は就任後すぐに、温暖化はデッチ上げで、アメリカの国益に反すると息巻いて、パリ協定の順守で設けられたCOP(Conference of the Parties/気候変動枠組条約締約国会議)を離脱した。もともと根拠のない離脱だが、その根拠がないことを、政権を支える中央省庁が指摘(批判)したのだ。

どこかで点数を稼がなくてはいけない大統領は北朝鮮危機をそれに使おうとしているが、アメリカ国民の多数はそれになびいていない。それもわかっていて、ねらいは、支持母体になっている財閥が喜ぶアジア同盟国への大量の武器販売。

娘の補佐官イヴァンカは、これも夫がロシアとの利益相反疑惑で聴聞委員会にかけれれている上に、中国でのイヴァンカブランドの販売権の押し売りや好きなブランド商品を連呼して、国民から利益相反だと顰蹙(ひんしゅく)をかっている。

こうした情報は、日本のマスコミではまったくといっていいほど、報道されていない。
それどころか、イヴァンカ氏がこういった、どこいった、手をふった、トランプ大統領と総理が親密な関係を深めたとかいった報道しかない。

昼の報道バラエティにレギュラー出演している国際弁護士は、トランプ政権が追い詰められている現状をアメリカ人の基本にあるソビエト嫌い、ロシア嫌いの国民感情が言わせているに過ぎないと情緒や感情の問題にすりかえて、アメリカの司法判断を否定し、侮辱していることにすら気づけず、恥じさえ感じていない。

アメリカにとって、いまロシア問題が大きいのは、クリミアの武力による併合に経済封鎖を行っている国際合意があるからだ。プーチンの人権弾圧や理不尽な他国介入を知っているからだ。

その状況で、この国は、訪日した歴代大統領の中で、空前の警備を空前の税金を費やして敷き、イヴァンカ氏が主催する、国連NGOでもない民間の女性支援団体に、政権の独断で59億円もの寄付を約束する。

共同声明では、武器をもっと買ってくれという大統領に、そうしようと首相が即答する。これには自民党内からも、これでは党はいらないじゃないかと批判が続出した。

子どもの貧困対策のための子ども支援への寄付が300万円しか集まっていない中で、安倍総理の独断と点数稼ぎに巨額が使われるからだ。

北朝鮮危機を煽り、憲法改正自衛隊の明文化という国民としては否定しがたい感情的条件を突きつけて、別に戦争をするわけでないからと来年には決議する構えを見せている。

すでに、強行採決で安保法制、とくに緊急事態法ができ、それらが憲法違反と批判されて、今後も十分な論証を得られない。そのために、憲法との整合性をもたせるねらいで、自衛隊憲法明記にこだわっているだけだ。ひとりひとりの自衛隊員のいのち、国民のいのちの重さをわかってそうしようとしているのではない。

わかっていれば、いま外交でなにができる、安定のための方策としてこうした道があると日米共同提案があってしかるべきだろう。それがまず何よりも自衛隊員ひとりひとりのいのち、国民のいのちを守る最初の道だからだ。だが、その言葉はまったくない。

軍事力に頼るのは政治、外交の放棄だ。言い換えれば、政治においては、治世者が自らの政治力の無力さを宣言するようなものだ。

忘れない方がいい。今回の選挙で、比例は野党側の得票数の方が多い。その証拠に比例だよりの公明党は大幅に議席を失っている。創価学会の造反が大量に出たからだ。立憲民主党の躍進は、その証だ。

数日前、自民党の大物政治家の支援団体の高齢の方と話しをした。この現状についての認識はぼくとまったく同じだった。自民党支持者でも決して安倍政権を支持しているわけではない。自民党議員でも現状に危機感を抱いている。

だが、それでも、明らかにおかしなことがまかり通るのは、ぼくら自身が散歩するイヴァンカに群がり、スマホの写メをとっていられる、おめでたい国民だからだ。安倍首相がトランプ大統領と同じネクタイをしているだけで、誇らしいと思える脳天気な国民だからだ。

統計数字や株価で国が豊かだと思っている、自分の世界だけがすべてだと思っている人たちだからだ。

その世界の頂点に、いまトランプ大統領と安倍首相がいる。じつに誇らしいことだ。