秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

君の名は…

ぼくは福島の薄磯海岸の街の被災を目にしたとき、それが、それからのぼくの人生や生活にこれほどの変化を与えるものだとは想像していなかった。

事前に知っていったわけでも、意図して訪れたわけでもないそこには、ぼくの心を強く引き付ける美しい海があった。だが、その海は、ついひと月前、多くの人々のいのちと生活を飲み込んでしまった海だった。

いまも薄磯には帰れない、海がこわい、海を見たくない…そういう被災者や家族を失った方の思いがそこにはある。震災から3年くらいまで、その生生しさが薄磯にあった。

泣けない、泣いてはいけない、泣く立場ではないぼくは、半年以上、心にずっと涙が溜まっていっていた。号泣できたのは、東京で震災から8か月後、「大いわき祭」をやっと実現でき、2日間のイベントが終わった翌日だった。そして、その1週間後、薄磯の海にたったひとりで報告にいき、海に手を合わせた。

ぼくはもしかすると、最初から薄磯の海に呼ばれ、そこになにかを探しにいっていたのかもしれない。だれかを探しにいっていたのかもしれない。

ぼくが震災後出逢い、知り合ったいわきの人たちのだれひとり、それまでは顔も、名前も知らない人たちだ。いわきをきっかけに出逢い続けている、浜中会津の福島の人たちの数は、多くの時間と労力をかけてつくってきた東京の人たちの数をすでに凌いでいる。

ぼくはきっと、だから、ずっと探していたのだ。薄磯の海とぼくを結ぶだれか、君の名は…と問える、あらかじめ出逢いを約束されていた人を…

県の申請書の作業で忙殺され、周囲に薦められながら劇場にいけなかった映画DVDを見て、ぼくは、改めて、はっとしている…。