秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

気づけるなにか

人には、人との出会いや書物、先人の名言、なにげなく投げかけられた言葉…それが人生の生き方や方向を左右するときがある…

きみも小学生や中学生のとき、教師や親、周囲の大人たちからそんなふうにいわれたことがあるんじゃないかい?

小学生の高学年のときから本の虫だったぼくは、中学のときには、手当たり次第に文学書や歴史本を読んでいて、中学の図書館にあった海外のものも含め、人文系の本のほとんどを中学1年のときには、読んでしまっていた。

そこでの本たちとの出会いも大きかったけれど、知識ばかりで頭でっかちだったぼくが人の現実を知ること、現実と向き合うことの大きさを教えてもらったのは、高校生になってからだ。

ぼくが英文学に進んだのも、演劇、映画にかかわるようになったのも、そこで出会った英語教師と演劇部の先輩がいたからだ。社会への確かな視点の取り方を学んだのもその二人との出会いが大きい。

コミック原作の連ドラ、「重版出来」をTBSでやっている。その第5話に、黒木華演じる主人公が勤める大手出版社の社長(高田純次)のその人生を変えた一冊の本との出会いがエピソードとして織り込んであった。

九州の炭鉱町の貧しい炭住に生まれた彼は、父を亡くし、母は、息子である自分が中学を卒業すると、男と駆け落ちする。自活せざるえない彼は、やむなく炭鉱で働く。成績もよく、将来に夢を描いていたが、貧しさがそれを許さない。

博打にあけくれ、博打のための金をゆすり、たかりで稼ぐ。それがある日、恐喝しようとした初老の僧侶から諭される。これではいけない。だが、なにをどうしていいかわらからない彼は、たかりの仲間から抜けるために、とにかく上京し、工場で働く。しかし、そこでも道は見えない。

そんなとき、同僚の一人が故郷の作家だと読んでいた本を彼にくれた。宮沢賢治詩集だ。中学以来、本などまともに読んでいなかった彼は、そこで、あの「雨ニモマケズ」の詩と出会う。

そして、言葉が綴られているだけなのに、彼は賢治の詩を読んで、心の奥から湧き出ててくる涙を止めることができない…。人生を変える一冊との出会いだった。そして、大検試験を受け、資格をとり、彼は、出版社に勤める。自分のように、人生を変えるような本との出会いをつくるために。

ぼくは思うのだけれど…この世には、ぼくらの人生には、人生やぼくらのこれからを決める言葉や声がじつは、ぼくらの生活の節々に、折々にあふれているんじゃないだろうか。

聞き逃したり、見逃したり、素通りしたり、あるいは、耳や目を閉ざしているのは、ぼくらの方で、じつは、大事なサイファは、だれにでも、どこにでも、手に届くところにある。

大事なのは、それに気づけるなにかがぼくらの方にあるかどうかなんじゃないだろうか…。大事なものを見落としているのは、ぼくらの方で、そんなときのぼくらは、本当に苦しんでもいなければ、本当に幸せでもないからじゃないんだろうか…

心に響く言葉は、言葉が心に響いているんじゃなく、求めているから響くんだ。求めているから、変わるために動き出す力になるんだ。

もうすぐ言葉合戦の果ての選挙。気づけるなにかがぼくらの方にあるかどうかを問われている。