秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

豆腐の真ん中

谷根千って言葉を知ってるかい?

下町の人なら、すぐにわかるけど、谷中、根津、千駄木界隈を総称して、そう呼ぶんだよ。いまでは、海外からのバックパッカーから大人気の東京なのさ。

欧米を中心とした海外の旅行者が利用する、情報サイトやガイドブックに紹介され、口コミで広がり、この10数年ですごい人気スポットになった。海外からの旅行者だけでなく、日本人にも人気で、中には、この界隈に住みだす若者も増えている。

谷根千は、東京大空襲の際にも、戦災を免れ、戦前の街並みが残ったこともある。いまでは、マンションも建ち、戦前のままというわけではないけれど、生活用水として、まだ井戸が使える江戸下町の風情が残ってる。地形の関係もあって、水質もいいらしい。

数日前、深夜に再放送していたNHK新日本紀行」で、谷根千駒込、芝、向島界隈の特集をやっていたんだ。一日中、PC作業で、やっと一息つけて、何気なく見始めたんだけど、次第に引き込まれてしまった。

そして、ふと思い出したのさ。

子どもの頃、豆腐を食べるときに、豆腐の真ん中を箸で四角に途中までくりぬいて、そこに醤油を溜めて、鰹節や博多ネギをちらして食べてことをね。

ぼくらの子どもの頃は、豆腐一丁がおかずになっていた。何かの煮つけか焼き魚があればもう贅沢で、豆腐好きのぼくは、それだけでほかにおかずはいらないと思ってたくらいさ。

どうしてそんなことを思い出したかって?

いまもかすかに残り続ける下町の暮らしっていうのは、そんなささやかで、些細な庶民の生活様式の積み重ねとそれを引き継いできた何かに違いない。番組を見ながら、改めて気づかせてもらったからさ。

それは多くの日本人のそれぞれの生活環境の中で、当たり前としていたことだったとぼくは思う。家庭や地域、生活共同体を支えていたのは、特別な何かでも、贅沢で豊饒な何かでもなかったんだとぼくは思っているからね。

ぼくもだけど、ぼくらは、いつか豆腐の真ん中をくりぬいて、そこに醤油をたらす食の所作すら忘れてしまっている。

つまらないことのようだけれど、じつは、ほんとはそんなことに、失ってはいけないぼくら日本人の大事な何かがあるんじゃないだろうか…