秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

心の事情

人は自分の心にも、他人にも嘘をつく。

嘘をつかなくていられない、心の事情がある場合もあるだろう。嘘をつくことを嘘と気づかずにつくこともあるだろう。よかれと思ってつく嘘もあれば、打算や計算があってそうすることもあるだろう。

だが、嘘はすべからく、最初に挙げた心の事情によっている。問題なのは、そのとき、その折の、心の事情がどういう質のものなのかなのだ。

いま世間の大きな関心と話題になっている衆議院での安保法制の強行採決。答弁がたびたび変わり、十分な説明ができていない状態の中で、自衛隊が戦闘に巻き込まれることはない、危険があれば撤収するといった、到底、提出されている法案の記述とは異質なことが語られてきた。

最後には、国民の理解は得られていないという言葉まで飛び出してきた。だが、やるべき政策は、国民の反対が多かろうが、付託された国会議員が決断してやるものだと、国民の声は無視する権利が国会議員にはあるかのような答弁が飛び出す。

その一貫性と整合性のない答弁には、だから嘘がある。それは、ひとり安倍というひとりの総理の心の事情がそうさせている。そして、その心の事情に従うことで得をしようとしている主体性のない議員たちの心の事情が透けてくる。

その心の事情は、決して、そうした総理や議員たちを支持している人たちの心の事情とも違う。限りなく個人的な心の事情だ。違憲と指摘されるほど、脆弱なのは、こうした心の事情が政治を動かしているからだ。

あまり報道されていないが、委員会での強行採決の直前、特措法でイラクへ派兵された自衛隊サマワでの活動報告書の情報が非公開にされていることを野党が指摘した。

黒塗りにされていた資料にあったのは、当時、自衛隊が復興支援活動とは別に、現地でロケット弾の発射訓練や攻撃を想定して銃撃戦の実践訓練をしていた部分だ。

訓練の良しあしは別にして、なぜ、そうした情報を開示していなかったのか。それへの解答のないまま法案が強行採決されたのだ。

有事関連情報というものが国民への開示を前提にしていない現実と今回の安保法制の中にある、国会の事前承認が、大方、原則としてと記載されている背景がそこに見えてくる。

憲法の改正ではなく、他の法律と同じに恒久法として、この問題を討論せず、法制化しようとしているところに、人々は政権の嘘を見るのだ。合意できないのだ。アメリカのネオコンと連動しようとする心の事情が見えてくるのだ。

そして、わずか1週間前まで、同じく、2500億円以上の費用をかけて建設しようとしていた新国立の計画を突然白紙に戻すという政治決断が出てくる。そうなったのも、37%となった内閣支持率、予想に反して10代、20代の若者たちが安保法制反対の意志と行動を示したからだ。

これも単なる安倍という総理の心の事情でそうなっただけのことだ。つまりは、いまこの国は、ひとりの総理の心の事情だけで政治が動いている。だから、そこにはゆるがない理念や理論、世界的な基準に照らして妥当といえる普遍的根拠を持ってない。

その姿はアメリカに大きな負の課題と遺産を残したブッシュ大統領を見ているようだ。取り巻きのネオコンに操られ、ユダヤマネー、オイルマネーの利権に踊らされ、中東に対立の火種を注ぎ、結果、9.11を招き、それ以後は、自分の心の事情で次々に中東に介入した。

世界を理論と理念でバランスで見られない、心の事情を持つ治世者は、治世には不向きだ。