秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

顔が見たい…

5日かかるところを3日でやる。4日かかるところを2日でやる。一度にいくつかの仕事をこなす…。

それを教えられたのは、10代の後半、バイトで務めたビヤガーデンだった。一度にいくつかの仕事を同時に片付ける。それができないと客を待たせてしまうぞ。それが最初だった。

映像の企画制作会社に入ると、雨よあられよと仕事をふられ、5つの制作プロジェクトを同時に動かすようなことを当然のようにやれるようになっていた。

コストを抑える。そこには、どうしても時間がかかわる。時間をかけないで、どれだけいいいものを生み出すか。それが仕事というものの基本中の基本だと叩き込まれたのだ。

一方で、舞台にせよ、映像にせよ、イベントにせよ。時間を急ぎすぎてばかりでは、いいものがつくれないというパラドクスもある。

もっと時間をかけたい。だが、それができない。その狭間で、いいものをつくる。生み出す。それがプロの流儀でもある。ときには、急ぎすぎて見落としや失敗もある。それをとりかえすために、また走る。

そうやって走り続けて、それなりの齢になってくると、大方、からだにいろいろなガタがくる。たぶん、心にも。

数日前、高校の先輩が脳梗塞で半身不随になり、いのちは取り留めたものの、会話もできない状態だと知った。

福島の事業やなにかの案内をすると、重い口のその先輩は、「いや。秀嶋がやることなら、特別のことがないかぎり、オレは必ずくるよ」。そういってくれる方だった。

この2年、毎年、福島の学習バスツアーにはかけつけてくれて、最初のときは、1日しか時間がないのに、夜の懇親会から参加してくださった。そして、得意の写真趣味を生かして、資料になる写真をとっていただいていた。

たぶん。先輩も、労働組合で委員長をやり、市会議員をやる中で、一度にいくつもの仕事をこなしてきたのだろうと思う。人をまとめる中、人々に自分の意志を伝えて回る中で、ストレスもあっただろう。

コストだけではない。人への思いや自分の願いがあると、少しでも周囲の負担を考えて、自分ががんばりさえすれば…と心根のちゃんとした人は思う。

だが、それがからだにも心にも負担となり、蓄積する。心根のちゃんとした人は、多くを語らないと同時に、そうやって無理をする。

なんとかリハビリがうまくいき、以前と同じとはいかないだろうが、また、先輩の恥ずかしげに自作の写真集を、無言で差し出すときの顔が見たい…