秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

ありえない世界遺産

人は、組織や集団をつくり、運営し、コントロールする。そのために、制度やシステムを変更し、それをコントロールしやすくする。

これは、どのような組織、集団、集合においても同じだ。

だが、どこでも行われていることであるがゆえに、そこにどのような理念や意志や思惑があるかによって、組織、集団、集合の性質や形、内実が変わっていく。

そのために、どのような意志、思惑があってそうするのか。なにを成果目標とし、それがどう組織、集団、集合に利するものなのか。また、自分たちに利するだけではなく、それは他者、他の組織、集団、集合から見たとき、彼らにとっても利するものなのか。

利さないとしても、彼らからの信頼や尊敬をもらえ、なにかの場合、連携や協働や連帯を可能とするものなのか。つまり、対立や齟齬を生むものであるかないかを人々は考えなくてはいけない。

これを持つか持たないか。それによって、組織や集団、集合につくられる共同幻想に普遍的な意義や意味、価値があるかないかの判断ができるできないがかかっている。

昨日、次の世界遺産登録に、明治期の殖産興業とその原動力となった山口、九州の歴史的施設を含む、全国23施設、近代化=西欧化=近代軍事国家を支えた施設がイコモスからの認定勧告を受けた。

とりわけ、特記すべきは、松陰神社境内にある、松下村塾や福岡の三池炭鉱、八幡製鉄所、長崎の三菱造船所などが入っていることだ。

これまでの世界遺産とは明かに方向性が異なる。長州は安部総理の地元。福岡は麻生炭鉱から出てきた副総理の地元。

さらに、関連する施設は反射炉や武器商人グラバー邸など、軍事関連遺産ばかり。23か所を同時にひとくくりにして、明治の産業革命遺産としているが、ここには、当時、大きな軍国主義政治の力が動いていた。

何度もいうが、筑豊を中心に、全国の炭鉱では、強制収容で働いた朝鮮人がいる。副総理の実家、麻生セメントの前身、麻生炭鉱では、太平洋戦争中、オーストリアで捕虜となったオーストリア、イギリス兵、約300名で強制労働の末、亡くなっている。

国際裁判で責任をとり、賠償金を払ったのは国で、麻生炭鉱は一円も払っていなければ、謝罪もしていない。

あたかも維新に戻ったように、西日本の軍事近代化が尊いとでもいいたげなそのラインナップの異常さには驚く。ありがちに、アリバイで、岩手の反射炉をいれているのもいかにもというありさまだ。

本来、ユネスコが指定する世界遺産は、文化庁が関係自治体や省庁、とりわけ環境庁文科省などと協議統括する。それが、今回は、内閣官房が圧力をかけ、内閣主導で昨年からイコモスに強力営業でアピールしてきた。

日米ガイドランや憲法改正へ向けて、国民意識明治維新以後、欧米化により先進国の一員として発展してきたという歴史の表層を植え付け、かつ、寂れてしまった自らの出身地へ世界遺産認定というおみあげをふるまう。

近代化というのは、欧米化こそその道であり、憲法においても軍事を含む制度変更が新しい維新の到来を呼ぶのだというプロパガンダにしようとしているとしか思えない。

松下村塾が認定されるなら、慶應義塾大学創立者福沢諭吉の生家も、大阪の適塾も、早稲田の創立者大隈重信の生家も…いやいや、東京芸大の前身、東京音楽学校、美術学校も認定しなくてはおかしいだろう。

明治維新後、土佐から始まり、福島や宮城などで運動が起きた、自由民権運動が生んだ民定憲法もそれに当る。

だが、それらは、明治の産業革命という時代の区切りで入らないようにしてある。

自由民権運動の民定憲法世界遺産にすれば、それが日本国憲法草案の種本だということがわかってしまうからだ。GHQに対して、憲法学者鈴木安蔵がいかにそれらを研究、提案し、日本人の憲法としていったかがわかってしまう。

歴史を好きに歪曲しているのは、だれでもない、いまの治世者やお雇い評論家たちだ。

だが、マスコミは、まともに、この問題に切り込んでいない。地元は大喜び、マスコミも礼さん…

ありえない。