秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

セオリー

数学・宇宙物理学に関する洋画が同時に公開されている。

ひとつは、The Theory of Everything 邦題「博士と彼女のセオリー」。もう一本がThe Imitation Game邦題「イミテーションゲーム」。

後者はまだ観ていないが、第二次世界大戦中ドイツの解読不能といわれた、暗号エニグマの解読に成功し、アルゴリズム理論を確立した天才数学者、アラン・チューニングの人生を描いている。

主演は、私も好きなイギリスの若手名優ベネディクト・カンパ-。周囲をイギリスの国立、王立演劇アカデミーを出た名優たちが固めている。

現在のコンピュータの原型ともえいる、チューニングテストを生み出し、人工知能開発のパイオニアでもあった。戦中の業績はイギリス特務機関の仕事だったため、その功績は知られることはなかった。

天才にありがちな数学的奇人で、当時、法的に禁止されていた同性愛者であったために、投獄され、その後、青酸カリ自殺で亡くなっている。

白雪姫の毒りんごを模倣したようなリンゴに青酸カリを塗ったものを食べて自殺したとされているが、あまりに多くの特定秘密を知っていたことや冷戦の時代だったことあり、イギリスやチューニングの才能を怖れたソ連の諜報部に暗殺されたとする研究もある。

ちなみに、戦争中日本軍もドイツのエニグマを模倣した暗号をつくっていた。だが、チューニングの功績もあって、開戦から間もなく、すべて解読されていた。

戦争がなければ、あるいは、同性愛への偏見と差別がかつてよりは幾分薄れた現代であれば、自殺または暗殺という不幸な結末でなく、数学の命題、リーマン予想にも新境地を拓けたかもしれない。

前者はだれもが知っている、あのスティーブン・ホーキング博士の人生を描いた作品。よく知られているように、アインシュタイン一般相対性理論を発展させた。

一般相対性理論では理論的破綻があったブラックホール解明に量子宇宙論特異点定理)という分野を拓くことで、現代の宇宙物理学に画期的な功績を残している。

宇宙が膨張し続けているということが理論証明されたことで、量子物理学のみならず、数学の分野でも大きな影響を与え、物理学から提言された非可換幾何学が予想の証明を大きく前進させた。その要因に、ホーキングの功績がある。

だが、ホーキングは、テレビCMなどでも知られているように、筋委縮症側索硬化症を学生時代に発症し、短命で終わるところが、進行が鈍化して、現在も存命だ。

ホーキングは、優秀とはいえ、もともと天才といわれるほどの成績ではなく、本来数学者を目指していた。だが数学では奨学金がもらえず、物理学に転向している。才能が開花したのは、その物理学でだった。

数学の命題、リーマン予想は、単に数学の命題ではなく、いまや宇宙の謎を説く、ひとつの公式を人類にもたらすものといわれている。そして、そこに宇宙物理学、量子物理学、分子生物学などの研究者が動員されている。

数式、公式を求めるために、いのちを削り、生活を破たんさせながら、研究者たちは、神の公式、セオリーに到達しようとする。そして、幾人もの研究者たちが、精神的に破たん、あるいは生活の破たんをきたしている。

ホーキングが72歳になるいまも生存していられるのは、彼の持ち前の知的ユーモアと性的なものへの関心のおかげだったのではないかと私は思っている。

それがあることで、治療困難の難病にあって、妻を支える男性の存在を容認でき、さらには、自らの疾病ゆえに、自分を支えられる女性との道を選び、妻も女性として生きられる男性との事実婚へ踏み切れた。

精神力で耐え忍ぶ美徳ばかりがまかり通る時代に、それを許されたのは彼が歴史に残る研究者であったこともあるだろうが、それ以上に、どう生きるかの自由を知っていたからだ。

やはり、私の口ぐせはまちがていないかもしれない。そう。下ネタからカクメイw
人間の現実のどうしようもない生理がわかってこそ、高邁な理想も実現に手繰り寄せることができる。

これが、私の、手前勝手だが、少しは真実を突く、セオリーw

とはいえ、「私は、すべてをかけて尽くしたわ」という妻の別れの台詞には、ナイフで胸をえぐられました。ホーキングが涙を流して頷くだけのシーンは個人的に秀逸。

はい。すみません…。



イメージ 1