秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

憎悪の固さと強さ

予測した最悪の事態となった。これは終わりではない。始まりに過ぎない。

安倍総理がエジプト・カイロでイスラム国との対決姿勢を明確にした演説を行い、翌日、トルコや他のイスラム圏のアラブ国家ではなく、中東問題の元凶であるイスラエルへの支援拠出金を発表したとき、私は、こうした事態が起きるとその危うさをブログで指摘した。

歴代総理でさえ、イスラエルへの明確な支持と反イスラエル勢力を名指しで敵視するコメントはひとりもしていない。その危うさをよく知っていたからだ。今回、イスラム国からではなく、明らかに、安倍総理から喧嘩を売った。邦人2名が拉致されている事実を知りながらだ。しかも、かなりの個人的情緒によってだ。

そして、翌日、邦人人質事件がイスラム国側から世界に発信され、今朝、事態はその予測された最悪の結果となった。だが、これは、私が指摘したように、テロ対象国家としてのこの国始って以来の歴史の始まりでしかない。

まるで、9.11直後のブッシュの演説のように、彼は、今朝、「この非道な行為に対し、必ず、償いを与える」と明言し、憎悪を憎悪でイスラム国へ返す、宣戦布告をしてしまっている。

そして、念を押して、「反イスラム国の有志連合と行動を共にする」ともまで言いのけてしまった。

この一連の中東外交。一体、どこで国民の合意をとったのだろう…。

衆議院予算委員会で野党からそうした追及があっても、先の衆議院選挙において、集団的自衛権の拡大解釈の閣議決定を含め、国民の承認をえていると言い切る。

国民の生命、生活を守るべき一国の総理が、また、私が指摘したように、テロに対して、今回の対応を見てもわかるようにほぼ無力といっていい、この国の国家安全保障のレベルで、テロ対象国家としての自覚さえ希薄な国民を抱えながら、そうした感情に任せた発言をする。

あいつは極悪非道な奴だ。あいつは敵だ。だから、地球から排除してしまえ…。アメリカやイスラエルに迎合して、そう受け取れる言動を情緒だけでやる。そして、対決でしか問題解決を探せない。イスラム国から名指しで、安倍よ…といわれて、カッなる。それは、イスラム国の権力者とどこが違うのだろう。いや、イスラム国の渦中にはまっている。

中東諸国ではなくても、アジア諸国アメリカ、欧州各国に市民に紛れてイスラム国支持者もしくは反イスラエル、反米組織の人間はいる。今後、海外渡航の際、どの国にいようが、私たちは拉致、人質、殺害、爆破テロといった危険にさらされることになる。

虎の威を借りるように、頻繁に登場する、「有志連合」。じつは、国連の空洞化の元凶といってもいい。

国連安保理で否決される軍事的圧力や軍事力行使を可能にするため、アメリカが音頭をとり、NATOを中心に、アラブ諸国も巻き込んで組織化しようとしたものだ。

当然ながら、この有志連合は一枚岩ではない。現在のような、ベトナムの再現ともいえる泥沼化する無謀な軍事行使で、他国の自治権を略奪し、傀儡政権を押し付けるやり方は、9.11以後ブッシュによって確定されたものだ。(以前から有志連合はあった)

だが、イラク戦争大義がでたらめだったことが明確となり、結果、スペインやフィリピンなどは脱落した。イギリスやフランス国内ですら、連合参加に反対する市民運動が起きた。

一方、デンマークやベルギーまでも参加しているのは、それらの国がイラクの油田開発にかかわり、利権が絡んでいるからだ。

UAEやエジプト、ヨルダンなどアラブ諸国イスラム教国家が参加しているのは、油田の輸出による富の集中で成立している現政権の治世者たちの既得権が、自国で、ジャスミン革命が起き、その後のシリアの内戦のような状態になり、奪われることを怖れているからだ。

つまり、有志連合とは、中東、とりわけ、イラクやシリアの資源や地理的環境になにがしかの利権が絡んでいる。また、イスラエルはいうまでもなく、アラブの土地を奪って誕生したユダヤ人たちの国家だ。それを維持するために、アメリカの経済・金融を握り、その圧力でアメリカの政治・軍事を動かしている。

まして、オバマ中間選挙で敗北し、大統領選挙があやぶまれている。議会において共和党の支持をえなくてはいけない。政治的パフォーマンスもいる。イスラム国への敵対感情を取り込むのは次の選挙への必須事項だ。

他国の資源を喰いつぶし、自国の安定のためには、他国の自治にも、紛争にも積極的に関与する。そこには、決まって、民主主義を守るため、平和維持のためという大義名分がでっち上げられ、利権獲得や既得権維持のための為政者やアメリカ・イスラエルの都合、それぞれの国の内政の都合による暴力を隠す隠れ蓑がかかっている。

アメリカや有志連合が行う空爆でどれだけの市民が巻き込まれているか、イスラエル建国以来、どれだけのイスラーム教徒の生活やいのちがパレスチナを中心に奪われ続けているか、イスラエル及びアメリカのユダヤ系金融、軍事、経済擁護のため、アフガンやイラク空爆、シリアの紛争、内戦で、どれだけの避難民が生まれ、どれだけの人々が犠牲になっているか…

それはひとり、イスラム国の悪だけではなく、利権に群がり、既得権にしがみつき、資本に物を言わせて大量の武器を投入している反イスラム国側にもあるのだ。

その対立と暴力とそれらが生む歴史的憎悪と距離を置き、NGO、NPOなど市民の献身的な仲裁と支援によって、長く日本への信頼が築き上げられた民生の力を彼は一瞬にして、奪い、危機に晒した。後藤さんの死は、まるでその象徴といってもいい。

ヨルダンは結果的に、アメリカとの共同歩調を選んだ。日本政府もこれまでにまして、中東においてはアメリカとの共同歩調へ踏み込んでいくだろう。

今国会では、日本人誘拐・拉致・人質事件に際して、自衛隊の派遣が検討される。
安倍氏とその取り巻きが望む、武力行使のできる国へ。

だが、かつて9.11のときそうであったように、中東において、パレスチナにおいて、欧米がやってきた罪の反省もなく、ただ自国民のいのちが奪われたという憎悪の感情だけで先走りすれば、歯止めなき、武力行使武力行使容認の支援国家へと私たちの国は変貌していくだろう。

反省はすべての国、すべての人々にある。そこから出発しない限り、人々が安心して生きられる世界は誕生しない。犯人捜しをし、そこに全部の責任をなすりつけて、平和で、愛される国になった国家はひとつもなく、世界が平和になったためしもない。

残虐非道な行為は糾弾していい。だが、テロ集団、暴力集団はイスラム国だけでなく、アメリカ、イスラエルも彼らから見れば、テロ集団、暴力集団でしかない。憎悪の固さと深さ、強さは、おぼっちゃまくんのあなたが思うほど、軽くはない。

だからこそ、浅薄な知識と学習のないものが、軽々しく発言してはならない。世界のしたたかな治世者と肩を並べた気になって、一国の舵とりをしてはならない。