秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

どんな思いでみつめているだろう

テレビ報道でも、新聞報道でも、あるいはfbでも、日本人人質事件を許しがたい蛮行として伝えている。行為そのものは、その通りだ。異論はない。

 
だが、同時に、中東に関する歴史、現代史の理解がこれほどないのか…と驚かされている。いや、それ以上に、なぜ、どうして、という素直な疑問を持たないのだろうと愕然としている。

歴史はどうあれ、このような蛮行はいけない。それはだれでもわかる。そして、簡単だ。悲劇を描き、被害者意識を育てて悪者をつくれば、大衆はそこに迎合する。

だが、その悲劇はなぜ生まれているのか、その悲劇をどうして止められないのか。そこに目を向け、なぞを解いていけば、いきなり、何の理由もなく、蛮行を行う奴が歴史上ひとりもいないこと、ひとつもないことがわかるはずだ。

9.11のあと、私は単身、取材でグランドゼロの前に立った。そして、遺族会でつくる、Peaceful Tomorrow という市民団体を取材した。そのとき、団体が指名したのが、高齢のバレリーという実にインテリジェンスの高い女性だった。その後、長崎原爆記念日にも日本で講演している。

彼女はこういった。
 
「私はそれまで、中東のことも、パレスチナ問題も知ってはいても、まったく関心がなかった。甥を9.11で亡くしたとき、なぜ、こんなひどいことを…そう思った。そして、その理由を知りたいと思った。なぜ、甥が死ななくてはいけなかったのか。それは、私だけでなく、親や子ども、友人を亡くしたみんなが感じたことだった」
 
「そして、私は、アメリカがイスラエルを擁護することで、中東でどれほど多くの人命が失われ、生活が奪われているか、その現実を知ったのです。もし、ここで、アフガン空爆に続き、イラクと戦争をすれば、そこにまた、憎悪が生まれる。そして、その憎悪は、また、私たちと同じように、悲しみに暮れる人々を増やすでしょう」

「この憎悪の連鎖を断ち切らない限り、本当の平和はこない。それを遺族である、私たちが声を上げることで始めよう。そう決意させたのです」

隣国の問題でも、執拗に対抗意識を煽る時代。「世界でいちばん輝く日本を取り戻す」。それは、対立する国や民族をアメリカのように、武力・軍事力・経済力で圧倒し、場合によって戦争という暴力によって、その国の人々が望んだかどうかわからない「民主主義」という美名を押し付けることなのだろうか。

そもそも、いまや戦争、紛争よりもテロが時代の戦争となっている時代に、これに対応できる制度やシステム、軍事力をこの国は持っているのだろうか。国民はそのための教育を受け、テロに対して対処できるだけの国民的合意がつくられているのだろうか。

私たちの国は、まさに中東においても、欧米やロシア、近隣諸国においても、仲介役や調整役、あるいは妥協点を模索し、軍事力を前提としない、中立の立場において世界との距離を調整してきた。
 
これは決して恥ずかしいことではない。世界のどの国もなしえない平和国家だったからだ。そうなりえたのは、資源もない国だったからこそだ。かつて、資源がないがゆえに、他国を侵略、蹂躙した反省があったからだ。
 
そうやって、この国に向けられている憎悪を私たちの国は70年かけて、信頼へと変えてきた。

多くの論調をみていると、NHKが事件当初の昨夕の特番で、こうなった今回の2億ドルの拠出のねらいを冷静に解説した以外、そうした認識はメジャーの報道には見当たらない。

軍事につかわないというのは詭弁だ。戦争には現実の戦争のほかに、大衆操作がある。今回の拠出は避難民やイスラム国の被害に遭っている人々の救済のためというのは、真綿で首をしめるように、積極的であるにせよ、消極的であるにせよ、民衆のイスラム国へのこれ以上の賛同を抑止するために、プロパガンダを含め使われる金だ。
 
これが戦争への拠出でなくてなんなのだろう。私もやっと理解できた。

「積極的平和主義」とは、こういうことだったのだ。このときの平和は、アメリカ・イスラエルが望む平和であって、中東の立場に立った平和ではないということだ。

バレリーたちは、いまこの国をどんな思いでみつめているだろう。